野生化する魔王様


ベアトリスは大好きなお風呂に入って美しさに磨きをかけた。湯上りのベアトリスがジンのベッドに座り髪を拭く。



カオスを退治してからジンはベアトリスを部屋に呼び寄せ、一緒の部屋で暮らすようになった。一緒に眠り、朝を迎え、身体を寄り添わせるだけの健全な日々だ。



「魔王様?」



ジンは湯上りの妻をガン見し続ける。



(カオスを退治したあの日にした、一晩中のキスが忘れられない)



無礼講だからと許したあの日のキス。恥ずかしさのあまりぼろぼろ泣いたベアトリスの泣き顔をもう一度見たいと、ジンは考え続けている。



「ものすごく見られていますわ。私の身体に何かおかしいところがありましたか?」


「君はいつも完全に美しいよ、ベアトリス」


「まあ、ありがとうございます」


「ますます輝きがかかっていって、眩しいくらいだ」



ベアトリスは肩にぷるんを乗せて髪を拭いて、ジンの愛語に柔らかく笑う。近頃のベアトリスの笑顔は一層明るさを増して華やかになった。



魔国民の誰もが強さを示した彼女を受け入れ、エリアーナという新しい友と過ごし、魔王の寵愛を得ている。彼女は魔国に愛されていた。



そんな安定を得て幸せに満ちる瞬間が増えた彼女は、愛を体現するかのように朗らかに笑う。ますます魅力的に微笑む幼い妻に、魔王は我慢を強いられていた。



ジンはベッドの端にいるベアトリスの隣に座ると、ベッドが深く沈み、軋んだ。



ベアトリスは隣に座ったジンを愛しく見上げる。ジンは艶めかしい彼女の唇を齧ってみたい想いでいっぱいだ。



「ベアトリス、私は最近おかしいんだ」



今まで朗らかに微笑んでいたベアトリスは、眉を顰めた。



「どうされたのですか?え、ご病気ですか?!」



あたふたするベアトリスの可愛い頬を撫でてジンが笑った。



「体はどこも悪くない。むしろ元気が漲って困っている」



ジンがパチンと指を鳴らすとベアトリスの肩に乗っていたぷるんが透明化した。ジンの魔力を注いだぷるんはジンの思い通りに透明化できるようになった。



「元気で困ることなどあるのでしょうか」


「あるんだよ。私の幼く可愛い妻が愛し過ぎてね」



首をひねったベアトリスの肩をジンが軽く押すと、ベアトリスは背中からポスンとベッドに寝転がった。透明のぷるんがベアトリスの肩から落ちてころころとベットの下まで転がっていく。



「可愛くてごめんあそばせ、ということですわね?」



ベッドに転がされても警戒心が湧かずクスクス笑うベアトリスに、ジンのみぞおちがゾクゾクする。



(ジンが今から抱く気があると知ったら、幼い妻は怖がって泣いてしまうのかな?)



そんな戸惑う涙さえも見てみたい意地悪な気持ちが少しだけあった。サイラスは引かれると言ったが、本当にそうなのか試してみたい。



(彼女の涙を飲んだおかげで、身体だけではなく思考さえ若返ったのかもしれないね)



妻に野蛮だと思われたくない保守的な思考がなりを潜め、彼女を全部で愛すのに早いことはないという前衛的な思考が幅を利かせていた。



「ベアトリス、私は君を抱きたくて堪らないんだ」


「え?!」



ベアトリスの胴を跨いでベッドに乗ったジンを見つめて、ベアトリスの瞳がくるんと丸くなった。



「そんな、その魔族の通例ではまだそんな時期ではないと」


「私は魔王だよ?それはよく知っている。だけど、私の幼な妻はそんな考えを飛び越えるほどに魅力的だ」



ジンが薄い寝衣からすらりと伸びるベアトリスの首に、ちゅっとキスを一つ落とすとベアトリスの身体がビクンと大きく飛び跳ねた。ベアトリスは自分の身体のとびっきりの反応に驚いて、両掌で鼻から下を覆った。



「ぁ、魔王様、その」



瞳に一気に熱さが集って噴き出しそうになる。ジンが触れるとすぐに潤むベアトリスがなおさら愛しく、ジンはゾクゾクしてしまう。



「ダメかな?抱かないと言っていた私が、急に態度を変えたら怖いかい?」



腹の上に跨った魔王様が、ベアトリスの顔を隠す両手を取ってベッドに優しく縫い留める。するとベアトリスの両目の端からぽろりと涙が落ちてしまった。



「突然こんなことをして、やはり怖がらせてしまったか」



ジンが呟くと、ベアトリスはぶんぶん首を横に振った。



「まさかこんなに早く受け入れてもらえるだなんて、嬉し過ぎて涙が出ます」



ベアトリスの潤んだ瞳が、ジンの真っ赤な瞳をまっすぐに貫いた。



「私、こんなに幸せになっていいのでしょうか」



幸せに潤み幸せに慣れないいじらしいベアトリスの姿が衝撃的に可愛くて、ジンの理性は吹っ飛んだ。気づいたら、ベアトリスの唇に噛みついていた。



「ッん!」



ジンの滾る想いをぶつけた荒々しいキスをベアトリスは懸命に受け取った。ただ受け取るだけでも押し流されてしまいそうなほど激しかった。



でもそこに、愛が溢れんばかりにこもっていることがベアトリスの身体に直接伝わる。ベアトリスは何度も繰り返される熱いキスに溺れて、嬉しくて涙がこぼれた。



「愛してるよ、私の可愛い王妃様」


「私も愛していますわ。私だけの魔王様」



お互いの愛を見せつけ合うように、二人は強く抱き合った。








気だるい体を持ち上げて、ベアトリスは朝日が差し込む窓を見つめた。生まれ直したかのような心地がした。



一糸纏わぬ裸でベッドに座り込むと、ジンが背中から優しく抱きしめてくれる。



「おはよう、奥様」


「おはようございます……ジン様」



昨夜のベッドで何度も呼ばされた魔王様のお名前をはにかんで呼べば、ジンが心から幸せに満ちた微笑を浮かべた。



艶やかに微笑み返す幼な妻に、魔王様は持てる愛を全て捧げたくなる。もう一度、妻を愛そうかと思ったのだが、



寝室のドアが吹っ飛んだ。



「キャ!」


「おいジン!準備しておけと言ったのはお前だぞ!」



魔王の寝室のドアを吹っ飛しても罪に問われない賢者サイラスが、エリアーナを伴って偉そうにふんぞり返る。








─────────


あとがき


ちょっと賢者ー!余韻ー!笑


次、最終回!

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