ピクニックからのキャンプ!? ③

 当日。予測以上の暴雨風で、学校にすらたどりつけなさそうな予感を感じながらも、それぞれが支度をすること数時間。


 ここは、校長先生が生徒二人を乗せるために車を回してくれることになった。最悪の場合、学校に泊まることになるかもしれませんと言いおいて、校長先生は中古で買った軽自動車に二人を乗せて走り始めた。


「校長先生、教育実習生の先生は乗せないのですか?」


 ケーコが問うと、校長先生はニヤリと笑う。


「教育実習生って肩書だもの。このくらいの暴風雨はなんてことありませんよ。彼女に足りないのは実行力です。自分で提案しておきながら、無事学校にたどり着けないとあれば、ある意味教師になるのも難しいことでしょう。あら? わたくしなにか忘れているような?」


 思っていたよりも厳しい世界なんだなぁと思いつつ、ケーコはオーコの保冷ボックスに目を移す。と、いうのもさっきからずっとただよっているのがその保冷ボックスだったりする。


(うぷ。生臭い。まさか、生鮭とかじゃないよね?)


 オーコはオーコで、お菓子を買いすぎて、今月のお小遣いがなくなってしまったことを後悔していた。


(これはもう、しかたないよね? アイスも買ったけど、さすがにポリンと棒状のお菓子全種類制覇したかったし)


 こちらはこちらでこの調子である。


 さて、なんの因果か学校に着いたらいろんな生徒や先生、それに一般人までが集結していた。近辺の川が増水しそうなので、避難警報が出たらしい。


 なにかあったら一大事、とばかりに、慌てて避難所学校についたはいいものの、各自食品を持ってくることなんてすっかり忘れていたのだった。


「みなさん、腹ペコなんですね。それでは、あたしからおにぎりでーす。じゃーん!!」


 一同は目を見開いた。ケーコが持ってきたのは、ゴミ袋で雑に包んだ炊きたてご飯だった。


「さぁ、みなさんで分けて食べましょう!! なんなら唐揚げもどうぞ」


 しかし、唐揚げは見事に解凍失敗、というか電子レンジに入れるのを忘れたようだ。


「ケーコちゃん、海苔はどうしたの?」


 オーコはケーコに恥をかかせまいと小声で告げる。


「そうだ、忘れるところだった。最初から海苔巻いてたら、海苔がふやふやになっちゃうから、これ!!」


 それは、お葬式の後とかにもらうような海苔のパックだった。が、人数に対してあきらかに海苔の枚数が足らない。


「あ。じゃああたしからも。じゃーん、湯でたビーツのマヨネーズ和え。ちょっと大人な気分でわさび増量なミラクルサンドイッチ!! 当たりには梅干しか激辛唐辛子が入ってます」


 食えるのか? それを当たりと言えるのか!? この時点ですでに校舎内に漂う生臭さに、校長先生はじめ、集まった者たちはこの寒いのに、額に冷や汗をかいた。


 校長先生は思った。この子たちに圧倒的に足りてないのは料理の腕前だったのか、と肩を落とすのだった。が、今更手遅れだ。


「そしてそしてぇ!! あたしからは、おじいちゃんから産地直送!! 新巻き鮭!!」


 校長先生は、さすがの生臭さに頭痛を覚えた。違う。これは教育の結果ではないっ!! と息巻く。個人の自宅内での問題なのだと責任転嫁した。


「あとぉ、お菓子とアイスです!!」


 時すでに遅し。お菓子とアイスは飛ぶように売れたが、どれも鮭の臭みをしっかりとひきつけていたのである。


 のちに語り継がれる阿鼻叫喚なこのピクニックもどき。そして教育実習生の元に雨天での場所変更の電話を校長先生が忘れていたことすら、忘れ去られていたのだった。


「う〜、寒い。みんな遅いなぁ。早くチリ鍋やりたいよぉ」


 残念ながら、彼女が持参した鍋の中身は、ほとんど出来上がっており、水を入れて煮るだけの状態であった。いや、惜しい。


 一方その頃、手芸部の部室にケーコとオーコの二人がいる。ここだと落ち着くのだろう。


「ねぇ、ケーコちゃん。ついでに耳たぶカプリもやってみない?」

「今? ここで!? うーん? 今は生臭いからパス。つていうか、鮭を少しだけわけてくれるんじゃなかったっけ?」

「うん。おじいちゃんね、毎年すごく大漁の新巻き鮭を送ってくるんだ」


 あー、それは生臭くてもしかたないなと悟ったケーコなのだった。


 おしまい


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百合ドン。どんなものだかチャレンジチャレンジ〜 春川晴人 @haru-to

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