【AfterStory】たとえこの気持ちが届かなくても

※別の方に投稿していてこちらへ移動させたものです。



「むむむ、ホワイトチョコにするべきですかね」


 高校1年のバレンタインデー3日前。私、緋村咲愛ひむらさらは、スーパーのチョココーナーで立ち止まり、5分ほど悩んでいた。


 手作りチョコを渡す相手は、お姉ちゃんと学校で仲良くしている友達。そして、私が好きな人。


 好きな人には彼女がいるが、週末に勉強を教えてもらっているのでそれのお礼として渡したい。


 彼女さんであるお姉ちゃんに渡してもいいかと聞いたところ「いいじゃん」と応援された。


 結衣お姉ちゃんもチョコを作って彼に渡すのかと聞いたが、食べる専門だから作らないと言っていた。


(作ったら喜ぶと思うんですけどね……)


 迷った結果、ホワイトチョコはやめて普通のやつを買うことにした。


(ふふっ、これで後は前日に作れば完璧です)


 板チョコを買い物カゴに入れて、お母様に頼まれていたものを買うため、移動しようと後ろに下がると誰かに当たった。


「す、すみません!」


 後ろを振り返り頭を下げると聞き馴染みのある優しい声がした。


「こっちこそごめん。声かけようとしたら咲愛が後ろに下がってきたから」


「いえ、私も……はっ! お兄さん!」


 私は今一番会ってはならない人に会ってしまい、咄嗟にカゴを自分の後ろに隠した。


 結衣お姉ちゃんが付き合っていて、私がチョコを渡そうとしていたのが、今、目の前にいる間宮隼人まみやはやとさん。


 サプライズでチョコを渡すつもりが、これではバレてしまう。


「前から思ったけど、お兄さんって、呼び方に直さなくても……」


「では、隼人お兄さん」


 呼び慣れない呼び方をされて、彼は、私のことをじっと見て前の呼び方の方がいいと言いたげな顔をする。


「隼人さん……」


「うん、やっぱりその方がいいよ。ところでお使い?」


「はい、お使いです」


 お母様に頼まれたのは本当なのでここは嘘偽りなく答える。


「チョコ買うよう頼まれたの?」


「チョコは頼まれてません。これは私のです。もうすぐバレンタインなので友達に作るために買おうかなと……」


「あっ、そう言えばバレンタインか」


 私の同級生は、バレンタイン間近になるともらえるかもらえないかと話題になるが、隼人さんの様子を見る限り大学生はあんまり女子からもらえることに期待しないのだろうか。


 スーパーで立ち話は買い物する人に邪魔になるので必要なものを買って家に置いてから隼人さんとは少し公園で話すことになった。


「隼人さんは、お姉ちゃんからのチョコ、ほしくないんですか?」


「そりゃ、結衣からもらえたら嬉しいけど……」


 そう言って隼人さんは言葉を止めた。嬉しいけど何だろうか。


「結衣は作りそうにないと思う」


「あはは……隼人さん、わかってますね。私からこっそりお姉ちゃんに隼人さんがチョコほしいって言ってること言いましょうか?」


 いくら食べる専門だから作らないも言っているお姉ちゃんでも彼氏である隼人さんがチョコをほしいということを知れば作るはず。


「ううん、大丈夫。もらえなくても結衣からは誕生日とかに大切なものもらってるから」


「……そうですか」


 おかしい。あの時から私はお姉ちゃんのことを応援しようと決めたのに素直に応援できない気持ちになる時がある。


(やっぱり好きだな……)


「あれ、それってチーズケーキジュースだよね?」


 先程スーパーで買ったジュースを飲もうと思い、持っていたものを隼人さんは気付いた。


「はい、そうですよ。いつも断られますけど、飲んでみません? 口はつけてませんし」


 そう言って私は両手でジュースを持ち、隼人さんへ渡す。


「美味しいんだよね?」


「そりゃもちろんです! 私が保証します!」


 私も最初、このジュースをお姉ちゃんに勧められた時、美味しいのかと怪しんでいた。けれど、飲んでみたら美味しかったので隼人さんも好きになるはずだ。


 しばらくして隼人さんは、ペットボトルのキャップを開けて1口飲んだ。


「どうですか?」


「す、凄い美味しい……」


「ふふっ、ですよね! 全部飲んでいいですよ。お金は必要ないです。私からのプレゼントです」


「ありがとう、咲愛」


 チーズケーキジュースを好きと言ってくれる人が増えたことが嬉しく小さく笑っていると、隼人さんが何かを思い出したのかハッとしていた。


「そうだ、もうすぐ咲愛の誕生日だよね。欲しいものあったりする?」


「欲しいものですか?」


「うん。欲しいものがなくてもこのケーキが食べたいとかあったら作るけど」


「ケーキ……ショートケーキが食べたいです。後、1つわがままを言ってもいいですか?」


「わがまま? いいよ」


 作ってもらえるのは嬉しい。けど、私は、作るなら一緒に作ったものが食べたいと思った。


「一緒にケーキを作りたいです」


「……いいよ。じゃあ、誕生日当日は、一緒にケーキを作ろっか」


「はいっ、二人だと大変なのでお姉ちゃんも強制参加させましょう!」


 ガッツポーズし、隼人さんにそう言うと彼は苦笑いした。


「咲愛さんってたまに小悪魔っぽいところあるよね」





***





「できました……」


(ふふっ、完成しました!)


 お姉ちゃん、芽美ちゃん、そして隼人さんの分のチョコが完成した。


(喜んでくれるといいな……)


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【完結】小さな天使様とクール系美少女が姉妹ということに俺は気付かない~気付いた日からは姉妹が俺との距離を詰めてきた~ 柊なのは @aoihoshi310

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