『朝靄の獏』

ヒニヨル

『朝靄の獏(あさもやのばく)』

夜と朝のはざまに

象のような鼻を伸ばして

彼は近づいてくる。


大切なものを無くしてしまった

私は、一脚の椅子に

腰掛けて

朝を待っている。


彼は手の代わりに、長い鼻を差しだす。

私はそれを握って

ゆっくり、と立ち上がった。


彼は大きく口を開けて

涙を流しながら、

靄を喰む。


私の意識は遠のいて、

目を覚ますと

住み慣れた小さな部屋の中にいた。


いつから眠っていたのだろう。

目元に涙が残っている。

覚えていない、何も。


失った悲しみは浮かばない

深く沈んで、

考えようとすると

ただ痛みを感じた。


覚えていない夢が

いくつもあった。

そして、朝になると

なぜか寂しい気配を感じた。


私は一度見た、

朝靄の夢を思い出す。

窓の外はまだ薄暗い。



     Fin.





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『朝靄の獏』 ヒニヨル @hiniyoru

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