第57話 王都の噂

 自宅の寮で少し仮眠を取った俺は、見張りをしていた騎士たちが慌てて去って行く声で目を覚ました。


「……ゲルティ侯爵とササ伯爵の死が、公になったか。――さて、街の反応はどうなることか」


 人目は忍んでいたはずだが、目撃者がいないとも限らない。

 2人の死がどのように民衆へ伝わっていくかは気になる。


「噂が広まるまで、少し時間がかかるかな?」


 朝稽古あさげいこをしてから、街を練り歩くとしようか。


 うん、それが良い。

 そうして数時間、寮の庭で魔力を操作しながら剣を振るい――井戸水いどみずで汗を流した。


 もう、日もだいぶ高く昇っている。

 そろそろ、情報収集に出るとしよう――。


 王都の商店街を練り歩くと、早速のように情報が耳へ入って来た。


「ゲルティ侯爵様とササ伯爵様が暗殺された話、聞いたか!?」


「ああ。聞いたよ、お前さんで6人目だ。あれだろ? ゾリス連合国の暗殺者に殺されたんだろ?」


 街角で、商人と常連客らしき人が語り合っている。


 常連客らしき人は噂話が好きなのか、かなり興奮して身振り手振りを交え話をしている。


「そうなんだよ! その実行犯もさ、聖職騎士団せいしょくきしだんに始末されたんだってよ! 捕らえた者を尋問してみれば、出るわ出るわ黒い噂」


「黒い噂?」


「そう! 敵対派閥への冤罪えんざい、商隊からの強奪、挙げ句の果てにはゾリス連合国への内通まで画策してたそうだ!」


「内通だって? おいおい、あの方々は先の戦の総大将級じゃなかったか?」


「そうなんだよ! だからこそ、上へ下への大騒ぎなんだ! 噂じゃ王宮も相当に混乱してるらしいぜ? 汚職の証拠もガッツリあって、関わっていた内政官や騎士たちが次々と牢にぶち込まれているとか」


「いや、待て待て! 内通するなら、先の戦でラキバニア王国軍を退けたのはおかしいだろ? 矛盾むじゅんしてるじゃないか」


「良い所に目を付けるね~。流石は大商人!」


「しがない露店の店主に、見え透いたお世辞は止めろ」


 向かいの露店で商品を眺める振りをして、話に耳を傾ける。

 どうやら、この男たちの会話からは多くの情報を得られそうだ。


「その答えは、だ。第3魔法師団団長の――エレナ男爵にあるらしい!」


「ああ……。天才少女って噂になってた子だな。それで? なんでエレナ男爵なんだよ?」


「エレナ男爵は、敵の備蓄庫を急襲したり敵将を打ち破ったり……。それはもう、大活躍しちまったらしいんだよ」


「はぁ~……。成る程、それで侯爵様や伯爵様が寝返るのも、上手く行かなかったと言う訳か」


「それだけじゃないんだ! 事もあろうに侯爵様や伯爵様は――エレナ男爵と実家が裏切ったから、自軍が窮地きゅうちおちいった。そう事実を交えた嘘の報告を王様にしちまったんだよ」


「はぁ!? 計画を邪魔された腹いせって事か。嫌だね~、貴族様たちの権力争いは……」


「そう! それでエレナ男爵は罪を糾弾きゅうだんされる側から、侯爵様や伯爵様が戦でどう振る舞っていたか。今は違う取り調べを受けているらしいんだ。直ぐに解放されるだろうが、小っちゃい子を振り回して――」


 なんてお喋りで、なんて助かる人物なんだろうか。

 もしやノルドハイム枢機卿の力で、積極的に噂を喧伝しているんじゃないか?


 そう思う程に、一から十まで触れ回っている。

 その後も街を歩くが、何処も似たような話ばかり。


「ノルドハイム枢機卿の策が上手く行ったようだな。流石、俺とは比較にならない知恵者だ。はははっ!」


 2人の死と同時に――様々な悪事が明るみに出た。

 噂として、そして証言者しょうげんしゃもいる事実として広まっているらしい。


 まるで前世の日本で流行した伝染病でんせんびょう、コロリのように噂は人から人へと瞬く間に拡散されている。



―――――――――――

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