第54話 人の本質は?

 俺に逃げ道を塞がれた両名は、手をこちらへ向けて魔力を練ろうとしてくるが――。


「――おっと。魔法を使うなら――こちらもその瞬間に斬りますが? それでも良いですかね?」


「な、ぐ……」


 俺の実力は――戦場で十分に分かっているのだろう。

 

つむじ風を作ろうとしていた魔力は――微細びさいなまま、攻撃力を成す事無く霧散むさんしていく。


 2人は手を下ろし、俺へ媚びへつらうような笑みを向けて来た。

 どうやら……俺と交渉をしようと思っているようだね。


「な、何故このような真似をした? 私たちを殺せと……いや、アレだな! エレナ男爵の事だな!?」


「すすす、直ぐに解放するように手続きをしましょう! 勿論もちろん、この件は口外こうがいしないと誓いますとも!」


「それとも貴様――ルーカス男爵の手柄を、私たちのものにしたことか!? すまなかった、直ぐに賠償ばいしょうを用意しようじゃないか!」


「お、お金が入り用なら陛下が用意する何倍……いえ、何十、何百倍と出しますよ!?」


 ゲルティ侯爵もササ伯爵も、をしながら命乞いのちごい――交渉をしてくる。

 なんとも……見下みさてた姿だ。


「……そのおっさんへ片脚を突っ込んでいると言える年齢までに、犯してきた罪を数えると良い」


 俺がそう言うと、ゲルティ侯爵やササ伯爵は顔を見合わせ――。


「――はらませたメイドを口封くちふうじに家族ごと殺したことか!? それとも法務省へ手を回して、敵対派閥の一族をほうむってきた事か!? 借金を背負わせ、死ぬまで民を働かせ続けている事か!?」


「ぎょ、行商人を盗賊を装い襲ってきた事ですかな!? それとも民を他国へ売り払った事でしょうか!?」


「ええい、分からん! 誰に、誰に雇われ、何をどがめられているんだ!?」


 脂汗あぶらあせにじませ、口早くちばやに罪の自白じはくを始めた。


 成る程……。

 今回の件だけでなく、数え切れない程に手を汚していたのか。

 爵位持ちの貴族は――同時に騎士でもあると言うのに。


 凄く――ワクワクしてしまうよ。


「……義を見てせざるは、勇なきなり」


 俺が刃を振るい、人を斬るべき義が――また増えた。

 剣先を向けると、2人は分かりやすく身を震わせ怯える。


「俺はね、この世界の士……騎士には、武士とはまた違う魅力があると思ってるんですよ? 武士とは己の矜持きょうじを貫き、己の士道に従い生きて死ぬ者。それに対して騎士は――己の矜持きょうじを捨ててでも、主に仕え民を守る者だ。自分勝手に己なりの義を探究し貫くする武士と比べ、騎士とはなんて組織や社会にとって優れた――正義せいぎ存在そんざいなのかと、ね」


 ああ、知識として……ルーカス・フォン・フリーデンが学園で学んだ情報としての騎士は、尊敬に値するよ。


 だが残念な事に、抱いた天上てんじょう理想りそう体現たいげん出来ていなければ――甘美かんび耳心地みみごこちの良い妄想に過ぎない。


「騎士にせよ武士にせよ、国家からすれば兵士であり――たたかいの道具どうぐである。有事に自らの命と手柄大事てがらだいじさに、守るべき民や若者を見捨てるようなこころざし正義せいぎしか持たん騎士であれば――それは騎士として死んでいる。まして騎士をまとめる指揮官がそれなら……最早不要もはやふような、こわれた道具どうぐだとは思いませんか?」


「そそそ、それは私たちの事をさしているのですか!? そ、そんな事をしたら、直ぐに捜査そうさでバレますよ! 私たちを殺すなんて、どれ程に罪深いことか! お、思い留まると良いです! 今なら間に合いますから!」


「私は侯爵だぞ!? どれだけ王国に貢献こうけんして来たと思っている! そうだ、責任はササ伯爵にある! 私はこいつに言いくるめられ、権力を利用されただけだ!」


「そんな、ゲルティ侯爵!? 私までも切り捨てるのですか!?」


「ええい、貴様は黙れ! 位の高い年長者ねんちょうしゃに逆らうな! 私の為に死んで見せろ!」


 よりにもよって――俺の前で、年長者に逆らうな、だと?

 おっさんとは――年齢ねんれいを武器に、年下とししたおさえつけるべきものではない!


「……長く生きればえらいと、勘違かんちがいしている者が多いですよね。若かろうと濃密のうみつな努力の日々で己の道を歩んで来た者は、尊敬が出来て偉いというのに」


 それは最早、問いかけではない。


 俺の口を突いて出た、独白どくはく

 自分にも常々つねづね、思い上がらないよう言い聞かせている言葉だ。


「ゲルティ侯爵、そしてササ伯爵。――ひと本質ほんしつとは、歩んで来た道で決まるとは思いませんか?」


 この世界の斬るべきおっさんと、自分が同じになってはならない。


 折角の経験を積める機会だ。

 その者たちの価値観を――掃除する前に、耳学じがくで学んでおこう。


 そうとは言っても……だ。

 そう長く俺の手のうずき、薄く浮かぶ人斬りスイッチのような笑みは最早、抑えられそうにないが――。




―――――――――――

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