第53話 天誅の時間ですよ?
アジトにあった書類を漁り尽くし、鞄へと突っ込んだ俺は、
「……間もなく、ササ伯爵と密談をする時間か」
遠目に侯爵邸が見える
ノルドハイム枢機卿からもらった情報は――実に詳細だった。
邸宅の出入り口や邸宅内の構図、密談の時間、場所。
随分前から調べ、情報を得る為の優秀な人材がいなければ知り得ない事まで書かれている。
「家人に
情報は武器だ。
それを理解し実行に移す優れた知略と行動力だけでなく、ギリギリまで信じる優しさまでをも持ち合わせているとは……。
全く、恐れ入る。
彼の大義を執行する力が、今までは不足していたのもあるかもしれないがね。
「流石はテレジア殿の父。心も広い。俺は友に恵まれているな。はははっ!……おっと、いくら離れているとは言え、夜に笑うのは控えよう」
目立ってしまうからね。
自制して、監視を続ける。
すると――馬車を引く馬の
より緊張感を持ち、出入り口を覗き込めば――。
「――ササ伯爵。……来たか」
ササ伯爵は門衛に連れられ邸宅へと入って行く。
斬るべき相手が揃ったのなら――俺も持ち場に着くまでだ。
ノルドハイム枢機卿がくれた情報には、
これだけ情報が十分にあれば、実行時のリスクも軽減出来ると言うものだ――。
「――成る程、これだけ
邸宅内……庭の警備も、魔力使用を感知して知らせる道具が
高さ8メートルはありそうな
しかし――残念な事に忍び返しもない。
フックを引っかけ、全速力のロープ
手の皮は凄く痛いけどね。
早く剣を振りまくって、皮を厚くしないと。
折角の若い肉体なんだからね。
しかし……本当に簡単に忍び込めたな。
「魔力や魔法を前提に発展した世界というのは――純粋な身体能力を用いた犯行を全く考慮していないな」
高い塀を
邸宅の庭を移動するのが簡単過ぎて
「……あそこの部屋か。テラス付きの部屋で密談とは、侵入を想定してないのにも程がある。京の都では、あっという間に殺されるだろうなぁ」
実際、前世では交流のある人物たちが何人も暗殺された。
数多の警戒をしていても、尚だ。
それに比べて、この世界の権力者たちは、なんと危機感の薄い事だろうか。
外を歩く私兵たちも、高い塀のお陰で俺の暗殺実行は見えないだろう。
「よっと。――さて、登るか。……いよいよだ」
ササッと
しかし、テラスへ人は出て来ない。
鍵縄をバッグに収納し、ガラス張りの両開きドアから中を覗き見る。
ワイングラスを手に大口を開けて笑い合うゲルティ侯爵とササ伯爵の姿があった。
笑顔は好きだが、こいつらの笑顔は――嫌いだね。
「――さて、いよいよ魔道具に頼るかな。半径20メートルの消音。……実に便利だ」
魔道具を発動させると――僅かに違和感がある。
外界からの音が、街の喧騒が聞こえない。
聞こえるのは――室内で不快に笑う2人の声だけだ。
「外観で目立たないように、一応――ね!」
2枚有る
中央の金属を斬る事に成功したのか、2枚のドアがこちら側へと開いてきた。
どうやら、成功したようだ。
そうして室内へ入り込むと――。
「――何者ですか!?」
「侵入者か!? ええい、私の衛兵は何をしていた! おい、誰か早く来い!」
酔っ払っていようと、俺が侵入した事にぐらいは気が付くか。
大声で人を呼んだようだが――それは悪手だ。
俺は一先ず、全速力で館へ続く出入り口まで駆け――逃亡を阻止した。
そうして逃げ道を塞ぎ、ゆっくりと2人へ振り返り――。
「――無駄ですよ。ここで起きる音は聞こえません」
「き、ききき、貴様は!?」
「……ルーカス・フォン・フリーデン、だと?」
ササ伯爵は面白いぐらいに動揺して腰が引け、邸宅の主であるゲルティ侯爵は
「……ゲルティ侯爵、ササ伯爵。俺が
俺は、思わず薄笑いが浮かぶのを自覚した――。
―――――――――――
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