第48話 君は――得意かい?

 その後、俺は直ぐに城から出るように指示され――寮に戻るまで、騎士数名に見張られていた。


 自室に着いてからやっと剣を返却された辺り、俺が衝動に身を任せて王城に乗り込むのを警戒していたのだろう。


「……生憎だが、俺の中身はおっさんでな。短慮たんりょを押さえ込む理性は習得済みだ」


 とは言え、どうしたものか。

 窓から外を見れば、寮の周りを騎士が巡回している。


 完全に警戒されているな……。

 ゲルティ侯爵やササ伯爵辺りが、騎士団に手を回したのか?


 ノルドハイム枢機卿は、「手はあるから」と言っていたが……。

 あれは俺が宮中で刃傷沙汰にんじょうざたおよばないようにと、咄嗟とっさに出た出任でまかせだったのだろうか?


 友の言葉を疑うのは良くないが……。


「……どうすれば、エレナさんに罪は無い。親を罰するのが正しく、すじの通った道だと理解させられる? どうにかして若者を救わねば……。おっちゃんとして、信義を抱くサムライとして――いや、人間として、だ」


 空けていた窓から入る日が傾いていく。

 気が付けば陽は落ち――室内は暗闇に包まれていた。


 そんな時、外から言い争う声が聞こえた。

 きしむ床を踏み鳴らし、窓から外の様子を見てみれば――。


「――ルーク殿?」


 ノルドハイム家の家紋付きの馬車で、家令のルーク殿がやって来ていた。


 寮の出入り口で何やら騎士とめているようだが……。


 俺は直ぐに、出入り口へと向かう。

 すると――。


「――ルーカス様。良い所へ。これよりノルドハイム邸へいらしてください」


「だから、そのような勝手は許されないと言っているだろう!」


「我らはルーカス・フォン・フリーデンを見張るよう、仰せつかっているんだ!」


 成る程、俺を連れて行きたいルーク殿。

 そして案の定、俺を見張るように役目を言い渡された騎士がそれを阻止しようとしているのか。


 しかしルーク殿は顎をさすりながら、堂々とした声で反論する。


「我が主は、ルーカス様の寄親よりおやです。寄子となるルーカス様が宮中で及ばれた狼藉ろうぜき一晩折檻ひとばんせっかんすると共に、貴族としての心構えをご教示きょうじされるとの事。それは陛下もお認めになられた、我が主の役目と聞いておりますが? まさか、あなた方は陛下のご意向に逆らうのでしょうか?」


「う……。だ、だが……。我らには我らの役目が……」


「それならば、我が屋敷を見張るのは如何でしょう?」


「……なに?」


「ノルドハイム家の屋敷を見張るのは如何いかがかと申しあげているのです。本来ならば枢機卿猊下すうききょうげいかの屋敷を騎士団が見張るなど、ガンベルタ教へ対する不敬ふけい。しかし今回は特例としましょう。家令かれいとして敷地外からの監視を許可致します。それならば、あなた方も役目を果たせるのでは?」


「……分かった。良いだろう。直ぐに増員して、我らはノルドハイム邸へ向かう」


 騎士もここまで妥協案を示されては、折れざるを得なかったのだろうか。


 いや、ゲルティ侯爵やササ伯爵の息が掛かった者と考えれば、ノルドハイム枢機卿をも警戒している可能性が高い。

 警戒人物を同時に監視出来るのは好都合だと判断したのかもしれない。


 そうして俺はルーク殿に連れられ――昨夜と同じように、ノルドハイム邸へとやって来た。


 今日はメイドや執事たちによるお迎えも無い。

 まるで人目を忍ぶかのように、屋敷を進む。


 一言も発さないルーク殿に案内された先は――昨日、訪れていない部屋だった。


 無言で扉を開いた先に――。


「――よく来てくれたね、ルーカス君」


 執務机しつむづくえを前に腰掛けるノルドハイム枢機卿が居た。

 真剣な面持おももちを浮かべており、俺は説教されるのだろうと覚悟を決めた。


 俺は友が――エレナさんが不条理ふじょうりに連行されるのを止めさせようとした事は、決して反省しないだろう。


 あのような事、おっさん共がわかむような愚行……納得が出来る訳がない。


「……ノルドハイム枢機卿。俺を取り押さえる時、言いましたよね? エレナさんを助ける手はある、と。友の言葉、信じて良いのですな?」


 思わず、声のトーンが低くなってしまった。

 そんな俺の問いに、ノルドハイム枢機卿は――。


「――君は、暗殺は得意かね?」


 そう、問い返して来た――。



―――――――――――

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