第37話 『聖女』を受け入れられない理由

おのれ功績こうせきおのれでひけらかすような真似は、かえってサムライの名を汚す浅ましい行為でしょう。見る者がキチンと結果を見れば、自ずとその過程の功績も評価されますから」


「……成る程ね。君の言う通り、評価にも自己評価じこひょうか他者評価たしゃひょうかがある。他者評価がついてくる前に自己評価ばかりが肥大ひだいするのは、恥だと言う事だね?」


「はい。もし功績が正当に他者から評価されないのなら、その組織は腐敗ふはいしているので根本こんぽんから見直すべきものだと思いますよ?」


 生前の俺が生きた動乱の時代なんて、まさにそうであった。

 これまでの腐敗を洗い流すように、組織を根本から変革する時代だったからねぇ。


真理しんりであり、長く続く組織に属する者としては耳が痛い話だね。……テレジアは他者評価に大して自己評価が低い。だから他者から聖女と言われても、受け入れられないのかな?」


 それに関しては、俺も同じように思う部分があった。


 聖女と言うのがどれ程に尊く凄いのかは、正直言って分からない。

 政治利用されるのは痛ましいが……。


 テレジア殿の治癒魔法の腕前、魔力量、仁愛じんあいの精神。

 どれを取っても、あの場に居た救護兵の中で飛び抜けていたのは事実だと思うから。


「ほ、本当は私に死者の蘇生なんて出来ませんので……。正当な自己評価かと思っています。それに……聖女様がいるから致命傷ちめいしょうも――死すら怖くないなんて。……実力以上の事を喧伝けんでんされても困ります。どうあってもご期待に応えられない肩書きは、重過ぎて辛いのです」


 成る程、死者蘇生の奇跡を成すのが聖女の条件だとして……彼女がいるなら死んでも平気。

 そう皆に思われるのは、厳しいだろう。


 俺に関しては――生前の魂が別世界から誘い込まれたようなものだろうから、聖女の条件としては別口だと思うしね。


「テレジア殿の仰る通りですな。テレジア殿は、まだ若い。段階を踏まず過剰な役割で若者を潰すのは、許せませんよ」


「ルーカスさん。改めて、ありがとうございます。……ルーカスさんの言葉がなければ私は、重圧から治癒魔法を過剰に使用して魔力枯渇まりょくこかつを起こし、命を落としていたかもしれません」


 本当に有り得そうだから、怖い。

 己の魔力保有量を超えても治癒魔法を使い、テレジア殿自身が死にかねない。

 それ程に、テレジア殿は献身的な人物だとこの短期間で察するものがある。


「まぁ……おっちゃんに対等に接してくれる、その深き慈愛の心。間違いなく――俺にとっての聖女様ではありますがね? はははっ!」


「も、もう! またおっちゃんなどと自称して、私を揶揄からかうおつもりですか? 本当に、もう……。ふふっ」


 うん!

 やはり白銀に輝く良い笑顔だ!

 この笑顔を護る為にも刃を磨き、心身を強靱に出来るよう俺も励まないとな!


 いざという時に大切なものを護る為に武を振るう――武士道を生きる、サムライとして。


 そして――若者の笑顔を護るべき、おっちゃんとしてな!


「テレジア、良い笑顔だ。帰って来て聖女としてゲルティ侯爵に登壇とうだんさせられたと報告した時とは、まるで別人のようだよ。お父様と結婚すると言っていた頃を彷彿ほうふつとさせる可愛い笑みだ。いや、それよりも色恋いろこいの――」


「――お父様!? い、いじめないでください!」


「はははっ! 仲の良い家族の団欒だんらん、これは素晴らしい酒のつまみをいただきました! お陰様で良い酒席を過ごせます! もっとやってください!」


「ルーカスさんもけないでください! い、いじめっ子ばかりです……。ふふっ」


 困ったように笑うテレジア殿は、とても楽しそうだった。


 いかんね。

 酒によったおっちゃんのテンションに、若者を困惑させては。


 酒に飲まれないように、ちょっとだけ真面目な話をしようか。

 全員が一緒に考え、発言が出来るような話題を――。



―――――――――――

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