第21話 やっぱり刺したい
俺はラキバニア王国の負傷兵へと
慌ててエレナさんやテレジア殿もついて来た。
「少年よ。あなたの根性は、大したものですな」
「……しょ、少年?」
荒々しく息をする少年の横には、
子爵側近が着ていたような全身鎧じゃないのも、また都合が良い!
「俺はルーカス・フォン・フリーデンと申します。立派に戦った貴殿の名前も、お聞かせ願えませんか?」
「だ、誰が敵に名を――……」
そう口に仕掛けた男だったが、テレジア殿を見て
成る程。
この男もテレジア殿の治癒魔法に救われた口か。
やがて男は、ゆっくりとだが俺の問いへ答えてくれるようになった。
その名前から、
「――そうか。貴殿は良く戦われましたな。
「敵にこのような施しを受けるとは……。俺は、俺は……」
涙を流して悔しがる男の気持ちが、俺には良く分かる。
だが、
職業軍人と言うより、兵士を
下級騎士は
「貴殿は、生前の俺に似ている
生活の全てを
たが――ほぼ民と同然の暮らしをしている者にまで、囚われの屈辱から命を絶たせてはいけない。
「貴殿が憎むなら、何時でも俺へ復讐を果たすと良いですよ。俺は何時でも、受けて立ちましょう。……だが、今は
「それは……。その通りだ」
悔しそうに呻く男の涙を指で拭うと、テレジア殿も一緒になって布で涙を拭うのを手伝ってくれた。
男の目からは――拭うのが間に合わない程の涙が、更に勢いを増して溢れ出している。
「聖女様……」
「私は聖女なんかじゃありませんよ。ただ、ちょっとだけ治癒魔法が得意な者です。ルーカスさんの言う通り、どうか今は休んでください。きっとご家族も、貴方が無事に戻るのを待っています」
「ん。話を聞いていた。貴方は懸命に家族を食べさせようと、
テレジア殿やエレナさんが励ますと、男はいよいよ――しゃくり上げて泣きだした。
この涙は、みっともない涙なんかではない。
何かを護る為に必死になった者のみが流せて――次の瞬間を生きようと言う、美しい涙だ。
「ああ……。ジグラス王国には、聖女様のように優しき女性がこれ程に居るとは……。全て、
「うん、俺も同意ですよ。お2人は
「……それでこの戦争が終わるなら」
了承を得られた。
了承が得られずとも、
「ルーカスさん。敵軍の兵士の情報を聞き出して、鎧までお借りするなんて、どうするのですか?」
「まさか、ルーカスくん……。遠くから斥候するのではなく、敵軍の中へと潜入するつもり?」
「おお、良く分かりましたね! これまでが
笑いながら言う俺の手を――テレジア殿やエレナさんが握った。
「なんで、なんでルーカスさんが単独で……そこまでの危険を冒さねばならないのですか!?」
「
泣きそうな瞳でそう言う2人に、俺は――。
「――はははっ! 俺の
「信義、ですか?」
「……なに、それ?」
「俺の
笑いながら言う俺の言葉を聞いて、テレジア殿やエレナさんは口をモニュモニュと動かしながら――目を潤ませている。
この短い交流時間でも、外見年齢が近い俺へ友情にも似た感情を抱いてくれたのかな?
それは――嬉しい話だ。
テレジア殿やエレナさんは「戦が終わったら、私とお友達に……。それと、お父様と会う約束を護って下さい」、「家族も居ない私から、誰かを見て楽しいと思える感情を奪わないで。絶対に帰って来て」。
そう呟いて、俺の手を握ってくれた。
嬉しい話だ――。
「――やっぱり、刺したい……」
自分の軍を
それだけ人斬りとは、重い覚悟を持って行うべきものだからな!
辺りを見ると、すっかり
そう、これも――聞きたかった情報なのだ。
「あの
「え、ええ。私だけでなく、ここに配属されている職員が魔力を込めています。1度魔力を
「――おお、それは素晴らしいですな。俺は……これが欲しかったのですよ!」
必要なピースが、
―――――――――――
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