第19話 女性同士、良いですね

 戦利品である馬をうまやに並べ、管理を委託いたくする手続きもエレナさんと終えた。


 そうして俺は、テレジア殿が居るであろう場所――俺が目覚めた負傷兵治療用のテントへとやって来た。


 魔法に関する知識へ運用方法などをエレナさんにご教示きょうじいただいてたら、すっかり話が弾んでしまった。


 主に俺が尋ねてばかりで、エレナさんは無表情だったんだけどね。

 それでも立ち去らず、おっちゃんの話に付き合ってくれるのは嬉しいよ。


 既に辺りは日も暮れようとしていて、テレジア殿も休んでいる頃かと思ったんだが――。


「――ルーカスさん!」


 俺の顔を見たテレジア殿は、嬉しそうに駆け寄って来てくれる。


 彼女は休むことなく、兵士の治療に奔走ほんそうしていたらしい。

 そんな喜んで近付くような反応をされると、おっちゃんは嬉しいよ。

 おっちゃんへなるに従って、10代や20代の子からは邪険じゃけんに扱われるのが増えてたからね。


「エレナさんも、ようこそ。見ての通りの場所で……。なんのお構いも出来ませんが」


「別に良い。テレジアはテレジアの仕事を頑張ってる」


「私は……その。聖女とか言われてしまいましたから。魔力が尽きそうでも、この場に居るだけで皆さんが元気になってくれますので」


「はははっ! それは確かに。聖女と祀り上げられるだけでなく、テレジア殿のような戦場の花を目にするだけでも殺伐とした心が癒やされますからね。俺も皆の気持ちが分かる気がしますよ」


「もう、ルーカスさんはまた私をからかって……」


 軽く俺を叩くテレジア殿は、その言動に反して嬉しそうだ。


 どうにも聖女と言う名を重く受け止めて、自分で自分を潰しそうだからな。

 こうして笑う機会を提供する事も必要だ。

 重責に潰されず、テレジア殿らしく生きて欲しい。

 その為になら、喜んで道化どうけにもなろう。


「テレジア。はい、これ。これを手に取って」


「あ、ちょ。エレナさん……わ、分かりましたから。そんなに押さないでください」


 俺とテレジア殿の間に割り込むエレナさんは、テレジア殿の手に何かを握らせている。


 ふむ……。

 成る程、おっちゃんの毒牙にテレジア殿がかからないかを心配してるのか。

 聡明なエレナさんなら、それぐらい警戒心を抱いていてもおかしくはない。


「それは何ですかな?」


 テレジア殿の手には、飴玉あめだまのような物が握られている。

 エレナさんが甘い物を差し入れしたのだろうか?


「これは魔力が少し回復するあめ。……テレジアの血色けっしょくから魔力欠乏まりょくけつぼう徴候ちょうこうが見えた」


「エレナさん……。本当にありがとうございます。これでまた、私も治療に参加出来ます」


「……違う、少し休んで欲しい。そういう生真面目な所は美徳びとくだけど、倒れたら元も子もない」


 小柄こがらなエレナさんが、女性特有のふくらみを携えたテレジア殿の脈を測ったり、瞳の色を観察している。


 随分と仲が良い様子だ。

 距離も互いの息が触れそうなぐらいに近いし……。

 やはり、戦場で同年代の同性……女性同士は稀少だからだろうか?


 そう言えば、学園の上院じょういん――貴族以上が通うクラスと言う共通点が2人にはあったな。

 学年は1つエレナさんの方が下らしいが……。

 どうしてここまで仲が良いのだろうか?


 ずけずけとプライベートな話を聞いて不快ふかいに思われても嫌だし、それとなく関係を尋ねてみるか。


「そう言えば、お2人とも学園で貴族が通う上院の生徒だそうですね。どうですかな、学園生活は? 楽しいですか?」


「……ルーカスくん。何か聞き方がおじさんみたい」


「私のお父様も、そうやって聞いて来ますね。……なんだかルーカスさんは、お父様と気が合いそうな気がします。この戦争が終わったら、是非ともウチにいらしてください」


「……テレジア?」


「あ、違うんですよ!? その、殿方に対して良くない軽率な表現でしたね! あの……その、本心からお父様と気が合いそうと思っただけでして……。そんな、他意はありませんよ?」


 エレナさんがズズイッとテレジア殿の顔を睨めつけると、テレジア殿は焦り始めた。

 まるで大好きなお姉ちゃんが男を家に連れて来るのを嫌がる妹のようだ。


「はははっ! 仲が良くて羨ましいですね! いや~、お2人は姉妹のようで心が和みますよ」


「違う。……私とテレジアはそんな関係じゃない」


「え、ええ。姉妹と言うよりは……。もっと、その」


 何処か恥ずかしそうに、2人は目線を逸らした。

 ほうほう、姉妹と言われるのは違うが……口に出すのは恥ずかしい関係。

 成る程、そうか!


「いや、これは気付かずに失礼しました。俺は納得が行きましたよ。それなら、俺は立ち去りましょう」


「え? な、なんでですか!? もう行っちゃうんですか!?」


「……ルーカスくん、何かを勘違いしてない?」


 勘違いも何も……。

 これは察しない方が無粋ぶすいと言うものだろうに。

 おっちゃん、人生経験を積んでいるだけあって――多様性たようせいには理解がある方だからね。


伊達だてにおっちゃんと呼ばれるまで生きていませんよ。俺は女性同士のそういった関係も、素晴らしいと思います。理解なき者にはばまれようと、己が信念を貫き通してください!」


 エレナさんとテレジア殿の手を取り、2人の手を繋がせる。


 うんうん。

 生前にも聞いた事はあるが……。

 成る程、これが恋の道か!


「いやぁ。こして良く見れば美少女同士、性格も互いに支え合えそうで好相性こうあいしょうなのが伝わってくる。――うん、実にお似合いな2人だ! おっちゃんのかわき目もうるおうと言うもの! 俺は応援してますよ!」


 グッと目の前で拳を作り、俺は笑みを向ける。


 するとエレナさんとテレジアさんは、ほとんどくっつきそうな距離で互いを見つめ合い――顔をボッと赤らめた。


 弾かれたようにバッと互いに距離を取ると、俺の顔をにらみ――。


「「勘違かんちがいです!」」


 大きな声で否定をした。


 おや?

 女性同士の恋路を学べると思ったんだが……。

 俺の勘違いだったのか?


 う~ん。

 恋の道の探求とは、何とも険しく難解な道だ――。




―――――――――――

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