第18話 聡明な女性

「考えはありますよ。まだ情報不足で煮詰につまっていないんですがね? 一先ひとまず、エレナさんの部下の手も借りたいのですが……良いですか?」


「それは良いけど、何をするの?」


「やるべき事、知りたい事は色々とありますが……。馬の口籠くちかごを300個分。あとは布を1200枚用意してくださいませんか? ひづめおおえるサイズの布を、ね。――あ、あと俺が連れて来た馬の管理もお任せして良いですか? あいつは可愛いんですよ~。おっさんにも平等に構ってくれる、良い馬ですから!」


「……うん、分かった。口籠も布も、私の団員が2日も頑張れば何とかなる。……それを聞いて、だいたいやろうとしてる事は理解した」


 この情報だけで察するとは……エレナさんは頭が良いなぁ。

 見た目通り、聡明そうめいなお方だ。


「助かります。ああ、あのゲルティ侯爵から約束通り騎兵が送られて来たら、何時いつでも作戦説明が出来るように一カ所にまとめておいてください。魔力を使わない古典的な火打ひういし火矢ひやの準備をさせて、ね」


 顎髭あごひげなんて無いのに、顎をさすってしまう。

 何かを考える時に髭を擦るのは……まさにおっさんに染み付いた癖だな。

 全く、若者の肉体に早く精神を追いつかせねば。


 いや、無理に追いつかせなくても良いのかな?

 うん。おっちゃんだからこそ、若い尊さを存分に実感して満喫が出来る。


 そう思うと――この状況も悪くないな。


「良いけど……。ルーカスくんは、どうするの? 一旦、逃げる?」


「逃げる? 俺は護るべき者を置いて敵前から逃げたりしませんよ。――武士の名にかけて」


 敵前逃亡?

 この俺が?

 生前では有り得ない疑いだ。


 新鮮過ぎて――思わず高笑いしそうになってしまう。


「ルーカスくんがゲルティ侯爵に使い潰される未来しか、私には見えない。国から逃げても良いと思う。と言うより、推奨すいしょうするんだけど……」


「ほう。俺のような者を心配してくれるのですか? エレナさんは、お優しいですな」


「……別に、普通」


「はははっ。かく、俺は逃げませんよ。――敵の兵糧庫ひょうろうこ備蓄庫びちくこと警備、立地などなど……。先ずは斥候せっこうからです。まともな情報も無しに戦をするなど、わかゆえあやまちでは済まされない愚行ぐこうですよ」


 あのテーブルの上に置かれた地図……大雑把過おおざっぱすぎて、まともな情報もなかった。

 しかし敵のだいたいの位置が分かっただけでも、無いよりはマシ。

 奇襲を掛けるなら――先ずは正確な情報収集からだ。


斥候せっこうって……。見つかれば間違いなく殺されちゃう任務。危険」


「大丈夫ですよ。俺は――諜報ちょうほうにも慣れてますから」


 初めての負け戦に、今頃は敵も慌てて立て直しを図っているだろう。

 指揮官を2人も失い、統率を失った軍団。


 それは――情報の詰まった宝箱の蓋が開いているのと同じ状況だ。


 後任の指揮官が派遣されるなりなんなりで規律を立て直される前に、やれる限りの事をやってやろうじゃないか。


「――さて、日暮れまでは、もう少し余裕がありそうだ。挨拶と準備をするとしようかな?」


「準備なら私も付き合う。肩書きのある私が居た方が、万全の準備が出来る」


「これはありがたいですな! エレナさんは本当に聡明な御方ですねぇ~」


「ん。……普段は言われても、何とも思わない言葉なのに。……なんでだろ、今は嬉しい」


「移動をしながら、魔法に関する情報について聞いても良いですか? 発動速度の平均やストロングポイントにウィークポイントなど。知りたい情報が山と有るんですよ!」


「分かった。魔法の弱点は、発動すると誰でも察知が出来て、必要魔力を充填じゅうてんするのに時間がかかる。発動者の魔力量や発動する魔法の規模にもよるけど、つむじ風のように魔力が杖に――」


 さて……エレナさんの協力があるのは本当にありがたい。

 日が沈むまでに出来る限り異世界の魔法を知り、戦略を考え、道具もそろえて行かねば。


 無学文盲むがくぶんもうなおっさんなりに、修羅場しゅらばを潜ってきて得た経験の学びがある。


 この状況を十分に利用してやろうじゃないか――。



―――――――――――

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