第11話 おや、2人の少女の様子が?

 この世界の言葉にめると――俺はかなり、罪深い事をしてしまった。


 ただでさえ女の子を前にすると、おっさんは気を遣わなければいけない立場だと言うのに!


「す、すまないね!? この世界では……あれだ。こう言う行為を――ロリコンと呼ぶんだよな!? ちがっ。おっちゃんは確かに少女の肩に触れたが、それは興奮したからで……。いかん! それではもっと卑猥ひわいに!? これでは罪状が追加されてしまう!? その、エレナさんの魔法で年甲斐もなく……」


「――ふふっ」


「……え? 笑った?」


 冷静な表情のエレナさんが笑うと――はなが咲いたように美しく感じる。


 これが……この世界で言うギャップと言うものか?

 凄まじく、心臓にキュッと響くな……。


「私を助けてくれてありがとう、ルーカスくん」


「ぁ……。いやいや。おっちゃんが命を賭けて良い若者を護るのは、順番として当然だから」


「私とは1つしか年齢が違わない。……ルーカスくんは興味深い人」


 ああ、そうだった!?

 不味いな。

 どう~にも、おっちゃんとしての精神が染み付いてる。


 まぁ――冗談だと思ってエレナさんが笑ってくれるなら、おかしい人扱いも悪くはないかな?


 俺が武士として振るう剣も、言動も――こうして護りたい者の笑顔へ繋げる為にあるのだから。


 かく、さっさとゲルティ侯爵へ報告をしないとな。

 子爵の遺体を背負い、将軍と呼ばれていた男が被っていた鎧を手に取る。

 馬は戦利品としてもらっておこう。


 ゲルティ侯爵の前には連れて行けないから……臨時りんじうまやに並べさせてもらえば良いかな?


「本当に助かったし、良い物を見させてもらったよ。どうやら敵兵も引き上げて、味方も陣に戻れたようだし……。それじゃ、俺は行ってくるとするかな」


「……本当はルーカスくん1人で行かせるつもりだった。でも……気が変わった」


「……え?」


「私も一緒にゲルティ侯爵へ説明をする。……そうしないと準男爵家の3男の手柄なんて、簡単に横取りされてしまう」


「あ~……。記憶にはあったけど、こちらの貴族はそうなのか……。俺は助かるけど、良いのか? エレナさんは俺なんかと一緒なんて、嫌じゃないかな?」


 その言葉は――またしても無意識に出ていたものだ。


 若い女の子と一緒になると――こんなおっちゃんと一緒なんて嫌じゃないのか。

 そう思い、つい尋ねてしまうのは……もう半ば無意識にまで染み付いている。


「……不思議と嫌じゃない」


「じゃ、じゃあ……お願いしようかな?」


「ん。お願いされる」


 トコトコと、エレナさんは俺の横について歩き始めた。


 なんだ、これ?

 どうしてこうなったのか、おっちゃんの頭とルーカスくんの若い脳味噌では――分からない!

 もっと中間の年齢なら、この状況を理解出来ただろうか!?


 初対面の女の子、エレナさんの距離が――やけに近い!

 どうしよう、かなり汗をかいたし……。

 わきにおいとか、耳裏みみうらの臭いとか大丈夫かな!?


 あ、肉体は若いから大丈夫か。

 若くないのは精神年齢だけだもんな。


「一先ず、馬を置いて――」


「――ルーカスさん!」


「え? あ、テレジア殿じゃないですか」


 陣に入り、まずはうまやを目指していたんだが――テレジア殿が駆け寄って来る。


 周囲は「聖女様だ」とざわつきだし、膝を付いて祈る者までいる始末。

 ガンベルタ教信者の信仰心には驚かされるな。


「ルーカスさん、よくぞご無事で……」


「はははっ! 背後には護るべき民に、護りたい人もおりましたからなぁ」


「そ、それって……。もしかして、私のこと、ですか?」


「当然です。命を救われた恩義おんぎ、これしきの事では返しきれません」


「は、はぅ……。恩義、だけですか? その、個人的な好意とか――」


「――テレジア。ルーカスくんは、これから直ぐゲルティ侯爵へ報告に行かなければならない。馬は任せた」


「あ、エレナさん。……な、なんだか、機嫌が悪くないですか?」


 俺から手綱たづなをひったくり、エレナさんはテレジア殿の手へ手綱を握らせていた。

 テレジア殿の言うように、少し不機嫌そうに見える。


 無表情だから感情は読み取り難いけど……行動から、おっちゃんは何となく分かる。


 若い女の子におび一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくにビクつくうちに、何とな~く機嫌の良し悪しが分かるようになって行くんだよな。


 もっとも、なんで機嫌が悪いのか分からないから――怒りを収める事は出来ないんだけどね。


 ま、それは互いに腹を割って話すしかない!

 それで己が悪ければ改めて誠心誠意謝罪せいしんせいいしゃざいをして……。

 そうして俺も成長すれば良いのだ!

 間違った時に頭を下げる事なんて、無料なんだからな!


 武士道に背く行為で頭を下げるなら兎も角、間違った事を認めずに意地を張るなど――食糧の欠片ほども価値がないのだ!



―――――――――――

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