第10話 幼き魔法使い、エレナ・フォン・リンデル
「――って、うお!? ゆ、弓矢部隊が適当に
参ったっての、嘘!
こんな無鉄砲な未熟者共と俺は違う。
俺には
こいつらみたいに亡くなった上官を見て混乱の余り味方を殺す輩とは――一緒にされたくない!
とは言え、捨て身の弓矢が――実は一番、困る。
弓は速い上に風で揺れるから、
味方の陣までもう少し!
何とかあそこまで行けば――この
「あと少し。どうしたものか――」
「――
「……ん? この殺気だった戦場に似つかわぬ、冷静な女性の声は?」
声量は小さいはずなのに――その
声のする方を見れば……立派なマントに帽子と
通常の兵士100人を指揮する者は、
だが
俺が馬で駆け抜ける地に、大きな魔力のうねりを感じる。
まるで地に
俺が馬でその地を駆け抜けるなり――。
「――土魔法、発動」
「うぅおおお!? こ、これは凄い! ぎ、ギックリ腰になるかと思ったぞ!」
大きく
厚みもかなり有りそうだ!
「な、ジグラス王国軍の罠か!? やられた!?」
「退け、退けぇえええ!」
俺まであと僅かに迫っていた数人が、土壁で敵軍と別たれている。
馬を反転させ、壁沿いに引き返すが――。
「――逃がさない」
空中に出現した氷の矢に、その身体を貫かれ――次々と落馬して行く。
何という魔法発動の速さ!
素晴らしい魔法の腕前だ!
あの魔法が俺に向いたら……今の俺は避けられただろうか?
かなり際どい、感嘆の息が漏れるほどに素晴らしい魔法攻撃だ!
こんな摩訶不思議な力、そして即座に発動する魔法を使えるなんて……。
指示をしていた者は……見た所、まだ幼い。
それこそ、テレジア殿より更に若そうだ。
顔の造り的にも、肉体の起伏的にも、身長的にもだ!
彼女は指揮していた団から前に歩み出て、馬に乗る俺へと近付いて来る。
礼儀として、俺も馬から降りた。
子爵の遺体は馬に乗せたまま、血を振り払った剣を
馬の手綱を退き――見たことも無い見事な魔法の連続で
「いやぁ~凄いな、貴女は!? おっちゃん、
「……敵の将を
「ああ、裏切りじゃないとも。――俺はルーカス・フォン・フリーデン。フリーデン準男爵家の3男で、10人隊長。一応、ジグラス王国軍の所属だよ!」
「……フリーデン。思い出した、下級クラスの準男爵家」
「お、なんだ。貴女も学園の生徒かい!? それにしては魔法師団の団長だなんて、これまた凄いな!?」
「魔法使いは年齢関係なく、実力至上主義だから。それより早く本営へ向かって。ゲルティ侯爵へ報告を――」
「――く、クソッ! 死ねぇ!」
敵兵の中で、まだ息があるものが居たらしい。
不十分な体勢で
「――きゃ……。ぇ?」
「俺がゲルティ侯爵と会えるのかい!?」
「ぇ……ぁ。その、手にある矢は? 手から、血も……。え、まさか――飛んでくる矢を、掴んだ?」
「ああ、敵ながら最期の意地は
最期の意地として、腰に備えていた短弓で矢を放った意志は見事だった。
キチンと狙い通りに飛ばすのも……これまた見事。
だが残念ながら――目が血走り過ぎて、射放つタイミングも読めた。
引き絞る力が残っていない上に短弓だから、威力も速度も足りない。
それを魔力で補おうとしたもんだから――つむじ風のように魔力の流れが見えやすく、簡単に掴めてしまったな。
「どうやって……。
「うん? 矢を見ずに魔力の流れを見れば容易いですよ!」
「そんな、そんな事が出来る目の持ち主なんて、私は会ったことがない。精々が発動した魔法のレジストぐらいで……」
「そうなのですか? 俺は殺気に慣れていますからなぁ」
「……そんなレベルでは、このような絶技は無理なはず」
そうは言われてもなぁ……。
経験からとしか言い様がないからね。
小銃の弾が眉間に当たるのを目視した人間など、俺以外にはそうそういないだろうからな。
「経験を積み重ねたおっちゃんだからこその特技があって良かったですよ! そのお陰で貴女を護れたのですからな! はははっ!」
戦に明け暮れ、
過去にしていた仕事の経験が活かされて良かった!
「貴方は、何者……。フリーデン準男爵家の、ルーカス? ここまでの腕なら学園でも上級クラスに名前が轟かなければおかしい。それなのに……」
ブツブツと呟いている少女の肩をガシッと掴むと――被っていた帽子とマント、そして青髪がハラリと揺れた。
そして表情乏しくも利発そうで、可愛らしい顔立ちだ。
眼を丸くして少女は驚いているようだけど……それは俺の感情だよ!
「それよりも――貴女の魔法は凄いですね!? この歳になるまで、ここまで驚いたのは西洋の大砲を初めて見た時以来ですよ!? 貴女のお名前も
「え……エレナ。私はエレナ・フォン・リンデル」
「エレナ嬢ちゃんか! 見た目だけじゃなく、名前まで可愛いな!」
「じょ、嬢ちゃんじゃない……。私は、あなたの1個下級生なだけ」
「おっと!? あぁ~そうかそうか! これはまた……。すまないねぇ、早く
「そ、それより……肩」
エレナと名乗った
おっと、これは――記憶にある、セクシャルハラスメントと言うやつか!?
この世界のルーカスとしての記憶と、日本で生きて来た俺の記憶が
熱い物に触れたように、俺は慌てて彼女の両肩からバッと手を離した。
もしセクハラと訴えられたら……。
やっ、ヤバいよね、これは!?
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
楽しかった、続きが気になる!
という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!
ランキング影響&作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます