第137話 三人で……

「いや、何で君がここにいるの?」


「それがベアト様との、契約ですから」


「ええっ?」


 俺は驚いていた。いや、誰であっても驚くだろう。俺とベアトが新婚の夜をともに過ごすベッドに、ベアトともう一人……◯塚トップスターみたいな女、アデルが夜着姿で座っているのだから。


「なあベアト、さすがに説明してもらっていいか?」


 基本的に俺はベアトのすることに異を唱えない。彼女は重い責任を負って、いろんな制約に縛られながら決断を日々行っているのだから。だけど、何で新婚の寝室に、それも蜜月最後の日に、他の女を呼び込まないといけないわけ?


「うん、ごめん。アデルが私に仕えてくれる条件の二番目が、これなのだ」


 はあ? アデルがこっちに鞍替えするにあたって、たまには俺と夜を共にする許可を求めたってのは知ってる。だけど「恥ずかしくて言えない」って言ってた二つ目の要求は……三人でしたいってことなの?


「そうです。最初はベアト様の愛人にしてくださいとお願いしたのですけど、それはルッツ様に操を立てるからダメなんだそうで。なので、一回だけでもお願いできないかなと粘りましたら、ルッツ様も混じって三人なら良いとおっしゃって」


 けろっとした顔で言い放つアデルに、開いた口が塞がらない俺だ。まあ、彼女が「女の子が好き」ってのは知ってたけど……雇用条件にベアト自身とのあれこれを盛り込むとは。主君をどう思ってるんだよと百万遍問い詰めたいが、愛人契約はさすがに諦めてくれたみたいで、まあ助かった。


 ベアトもベアトだよなあ……俺と一緒なら、女の子同士でも許せるのか。それとも、もともとそういうのもアリなのか。いや、さすがに平気なわけじゃないか……彼女は白い頬も耳も、いや首や胸元に至るまで、真っ赤に染めているのだから。そこまで無理してでも、この秀才を手元に欲しかったというわけなんだろう。


「そういうわけなのだ……アデルも今宵一晩だけで良いと言うし、ルッツが一緒に居てくれるなら、浮気にならないのではと思うのだ、済まないけど……付き合って欲しい」


 何だ、そのわけわからん理屈は。だけど、ここでイヤだって言っても、誰も幸せにならないよな。いやむしろ、俺はベアトともしたいし、アデルとするのもかなりお気に入りだ。そして、タイプの違うこの美少女たちの百合百合カップリングには、めちゃくちゃ興味があって……想像しただけで元気になってしまう。


「うむ、ルッツも喜んでいるようだな。ではアデル、よろしく頼む」


 またナチュラルに俺の頭の中を読んだベアトが、生真面目な言葉とともにアデルと視線を合わせた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 結論から言おう、三人でするそれは、めちゃくちゃ良かった。


 最初は俺が一回休みで見学ってやつだ。まずは契約を果たさないといけないからな。まあ当然攻めはアデルになるわけだけど、スケベ大国日本から来た俺の目から見ても、彼女は実に上手で丁寧で、おまけに執拗だった。さすがはGLの道に進むだけのことはあると、妙な感心をしてしまう。俺との時よりベアトが反応良くあっさり陥落するのを見て、なんだか負けた気分になってしまう。仕方ないからじっくり観察して、今後の参考にさせてもらったけどな。


 そしてその後は、代わりばんこに二人と……となるわけだけど、なんかいつものそれよりスパイスがたっぷり効いて、めちゃくちゃ刺激的だったんだ。こんな体験は、二度と出来ないだろうけど、いやはや堪能した。


「もう動けない……許して欲しい」


 そう言ってベアトがギブアップし、電池の切れたおもちゃの人形みたいに動かなくなってしまったことで、ようやく狂乱の宴は終了したのだけど。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「やっぱり、勝てませんでしたね」


 翌朝一番、なぜかすっきりしたような表情で、アデルがつぶやく。いや、夜の技能オリンピックは、俺の完敗だったように思うのだが。


「私と触れ合って寝ているのに、ベアト様は寝言で『ルッツ、ルッツ…』と貴方の名前ばかり。愛されっぷりに、思わず妬いてしまいそうです」


 そのベアトは、まだ眠りの国から帰って来ていない。まあ、二人掛かりであれこれ無茶したからなあ。今日は公務を入れていないと聞いているし、たっぷり寝かせておこう。


「俺に勝って愛人に昇格するつもりだったのか?」


「少しはそんなことも考えましたね。ですけどもう諦めました、きっとベアト様に必要なのは、父親のように包んでくれるお相手なのでしょうね」


 むむっ。そんな長い付き合いでもないのに、俺とベアトの関係を的確に表現するアデルは、やっぱり賢い少女だ。知識だけじゃなく、感性も豊かなのだろうな。


「うん、アデルみたいな子が傍についていてくれるなら、ベアトを王都に残しても安心だ。改めてお願いするよ、俺の大切な妻を……助けてあげて欲しい」


「ふふっ、もちろん……全力を尽くします。ベアト様もルッツ様も、敵の娘である私を色眼鏡で見ず、ただ一人の人間として、欲しいと言ってくれました。頂いた信頼は、必ずお返しすることを誓います……ところで」


 懐かない名馬が、ようやくベアトのものになってくれた。俺の胸に満ち潮みたいに感動がじわっと湧き上がる。だけど最後の「ところで」って何なんだ?


「ベアト様は当分お目覚めになりませんし、もう一つの契約を果たして頂きたいのですが……この機会を逃すと、しばらくはできないでしょう?」


 かくして俺は、新妻の眠っているすぐ隣で愛人といたしてしまうという、なかなか背徳的な経験をすることになったのだった。


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