第130話 百合百合なの?

 まあ結果から言えば、その日のうちに三回した。最後の一回が終わると、彼女は気を失ったように眠ってしまった……ちょっとやり過ぎたかな?


「まあまあね……これはもうちょっと吟味が必要かも」


 夜の間はかなりいい感じの反応を返して来てくれていたと思うのだが、翌朝にはこんな発言をする生意気なアデルハイド嬢だ。仕方ない、今晩も通うしかないだろうなあ。あくまでこれはベアトの命令だから、俺が思春期の身体を持て余してということではない……たぶん。


 その日の昼はグレーテルに捕まり、久しぶりに訪れた王都イチの甘味カフェで訊問タイムだ。極上のクリームを使ったイチゴのミルフィーユに口許を緩めつつも、彼女の質問はあい変わらず微に入り細を穿ってくる。


「三回も……」


「だって、男の良さをわかってもらわないといけないって話でさ」


「そっか、ルッツの良さを認めてくれたら、あの俊英令嬢がベアトお姉様の懐刀になるってわけね。確かに……頑張らないといけないかも」


「そう、そうなんだよ。これはミッションなんだ、仕方なく……」


「アデルハイド嬢は、良かった?」


「だからいいか悪いかじゃなくてこれはベアトのためで……」


「良かったのね?」


「ハイ……」


 なんだかいつか交わしたやりとりと、そっくりだなあ。


 そう、今までのお姉さんたちと違った感じで、とても新鮮だった。最初はずいぶん硬い反応なのだけれど、進めていくに従って宝〇スターみたいなキリっとした美貌が徐々に崩れていくあの体験は、なにかRPGで迷宮を攻略するかのようなわくわく感があって……さいごに彼女の方からひしっと抱き締めてくれた時の達成感は、ハンパじゃなく素晴らしい。


「ふうん、鼻の下なんか伸ばしちゃって……」


 ヤバい、またグレーテルがキレる……と身構えた俺だけど、今日は拳も電撃も飛んでこない。呆れたような諦めたようなため息をつきながらも、なぜか彼女の目は優し気に、少し細められている。ちょっと拍子抜けだけど、どうやらセーフのようだ。


「ごめん……」


「これがルッツだもんね、もう怒っても仕方ないわ。その代わり彼女を必ずオトして、ベアトお姉様の期待に応えるのよ! まさか彼女が側室枠を狙ってくるとは思えないからね」


 そうなの? クラーラの時は側室にするんじゃないかってあんなに気にしてたグレーテルなのに、なんでアデルハイド嬢だと、心配しないんだろ?


「うん、彼女が『女の子が好き』ってのは、かなり有名な話だから」


「ええっ?」


 なるほど。彼女は「男とあれこれするのなんか下らない」って言ってたけど、それは裏を返せば「女の子とするのは素敵よ」ということだったのか。アデルハイド嬢がそういう女の子だってわかってて、俺に何の情報も与えず種付けに出すって、ベアトはなかなかの鬼畜ぶりだと思うわ。


 だけど、昨日の様子を見る限り、途中からはかなり彼女も本気だったみたいだけどな。そうすると……両〇遣いなのか。


「そうなると……う~ん。やっぱり愛人枠かな?」


 いやグレーテル、どうして関係が継続される前提で考えちゃうわけ?


◇◇◇◇◇◇◇◇


 結局その晩も、侯爵邸の離れに通った。


 グレーテルは多少不機嫌な顔をしたけど「ベアトお姉様のためなら仕方ない」の一言で自分を納得させたらしく、その代わり昼間はショッピングとランチ、そして甘味に付き合えという要求をしてきた。粗暴な彼女にしてはごく真っ当なそのリクエストに、俺が従ったことは言うまでもない。


 侯爵家への出入りは、冷遇されているアデルハイド嬢にふさわしく、正門から堂々とではなく、使用人用の通用口からこそこそと。使用人には見られているであろうが、彼らは一様に不遇な次女に同情の目を向けており、主人に告げ口する者はない。かくして俺は、まさに彼女の元に「忍んで」いくことになるのだ。


「ごめんね、まるで盗人みたいな真似させて」


「まさに俺、そんな感じですよね」


 まるで〇塚スターのように凛々しい彼女が淹れてくれた紅茶を頂きつつ、まずはまったりと語り合う。これまでのお相手と違って「神の種」を熱望されているわけではなく、「種付け行為は素敵だと納得する」ことが目的なのだ。いきなりではなく前後のプロセスも楽しまないとな。ベアトのお茶と比べると淹れ方が大雑把なのか渋みが強い気がするが、そんなことは間違っても口にしない……目の前にいる女の子の価値は、その頭脳なのだから。


 とりとめのない話をするうちに、ようやくと言うか何というか、彼女も「女の子が好き」って嗜好を語ってくれた。恥じらうでもなく後ろめたそうでもなく、さらっとごく自然に。


「だから男と寝るなんてゴメンだと思っていたけど、最初の種付けは当主命令でね。お相手も私の男みたいな恰好を見て意欲が失せたのでしょうね、ものすごく粗雑なやり方だったけど……『これは義務だ、目をつぶっていれば終わる』って思って耐えたわ」


「なんだかゴメン……」


 俺にはどうしようもないことだけど、男を代表して謝る。いくら何でもお相手が初めてで、それも高額な種付け料を受け取っているのに、何の気遣いもなしってのは、男としてどうなのかと思うんだよなあ。


「ふふっ、ルッツ様のせいじゃないよ。でも謝るくらいだったら、今夜優しくして」


 カラコンでもハメたみたいな濃い紺色の瞳が、俺を真っすぐ見つめた。うん、優しくする……ちょっと、激しくなっちゃうかもだけど。

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