第三部 種付けシーズンは新天地で
第98話 楽しみにしてたのに!
「みんなから聞いていた通りね。素晴らしかったわ」
「俺も、とっても良かったです。約束してはいましたけど……本当に、朝までしちゃいましたね」
「ふふっ、ホントね」
下町に建つ安宿のベッドで、俺とサヤさんがまったり微笑みを交わす。
しばらくゴタゴタと忙しかったけれど、ようやく南方領地開発の段取りを官僚さんたちと詰めた俺は、闇一族の女性たちとの約束を果たすことにした。帝国との戦役に危険を冒して参加し支援してくれたサヤさん始め三人の女性闇使いさんと、子作りをするのだ。
もちろん、俺の種付け権を握るベアトの許可は下りている。彼女の理性は、闇の一族を手懐けるためには俺の子種が一番と判断を下したようで……アルトナー商会へ最初の種馬業務で送り出した時は涙目だったはずなのに、今や俺が連日下町ヘ出かけても、眉ひとつ動かさなくなった。俺への想いが薄れたのかとも思ってみたが、例によってそういうネガティヴな思考は彼女の「精霊の目」に読まれてしまう。
「もう私は、ルッツの気持ちを疑うことはない。一生隣に立って支えると言ってくれたのだから」
これから他の女を抱きに行こうという際に、まっすぐな視線を向けられてそんな言葉を口にされたら、感激しない男がいるはずがない。思わず肉付きの薄い上半身を、折れるほど抱き締めてしまう。その日はもう闇一族への種付けはさぼろうとまで思ったけれど、ベアトは黙って俺の背を押し、送り出したのだ。
そんなベアトの手管にばっちり引っ掛かって、下町へつくまで彼女の面影を目蓋の裏に浮かべていた俺だけれど、いざサヤさんと寝床を共にしてみれば、そんな純愛はどっかに置いて、ただの猿になってしまう。まあ男なんてこんなものだと、婚約者たちには諦めてもらうとしよう。
「それで……王女様たちとの結婚式はいつになるんだい?」
「俺はもう来月成人なのでいつでもいいんですが……次期女王の婚姻ともなると準備が大変みたいで。この戦争が起こったせいでそのへんが全然できていないんですよ」
「そうなるよねえ。だけどルッツ様は今度侯爵様になって、あの面倒なバーデン領を攻略しに行くんだって聞いてるよ。一旦赴いたら結婚式はなかなか難しいんじゃないのかねえ」
「ええ、なので領地に向かう前にというわけで、できるだけ急いでいるそうなんですが……なかなか」
「大変だねえ。まああたしたちはこうやって『神の種』を頂けりゃ、それで十分……と思っていたけど、やっぱりちょっと寂しいわ。ルッツ様が手の届かない遠いところに行っちゃうと思うと、ね」
涙をためた目でそんなことを訴えられたら、惚れっぽい俺はまた反応してしまう。思わず引き締まった筋肉質の身体を抱き寄せた後は、もう東の空が明るいというのに、最終ラウンドに突入していくのだった……我ながらつくづく、猿だよなあ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
結局のところ、結婚式は暫時延期となった。
官僚さんたちが戦後処理で忙しすぎて、十分な準備ができないってことで。女王陛下からも「王室儀礼よりも、国土の復興を急げ」という命令が下ったのだとかで……中世の専制君主には国民生活よりセレモニーを優先する者が多かったと聞くが、陛下が民思いの国王で良かった。
「だが、これでまたしばらく子作りを待たねばならなくなった。世継ぎを急ぐ立場でもないが……ルッツを受け止めてやれぬのが残念だ、なあグレーテル」
「そうですわね、私もルッツとともに過ごす夜を、楽しみにしておりましたのに」
何やら生々しいことを、堂々と口にする我が婚約者たち。あんたたちにとっての結婚はロマンチックな意味合いより先に、そっちが来るんだな。
「だってそんな気分にもなるでしょ。私とベアトお姉様が待たされている間に、ルッツは何人の女と子作りしたのよ? 結構、寂しいんだからね?」
それについては、申し訳ないとしか言いようがない。今年の俺は婚約者のいる身でありながら、アルトナー商会のスザンナさん、そして闇一族の女性から七人、あとはもちろんアヤカさんと、まあ節操のない種付けをしてきたからな。
「怒るなグレーテル。それはみな、ルッツが進んで抱いたわけではなく、私が命じたことなのだから。もっとも……ルッツ自身もずいぶんとお楽しみであったらしいが」
うぐっ。薄い微笑みを浮かべつつも、ベアトは容赦なく冷たい視線を俺に鋭く突き刺してくる。確かに、ベアトの言葉は否定できない……種付け目的だけなら、一晩に何回もいたす必要はないからなあ。
「グレーテルは、バーデンについて行くのだな?」
「ええ、王都にいるより、魔獣たちを相手に戦うほうが、お役に立てるはずです」
ここだけは、薄い胸をグッと張るグレーテルだ。そう、彼女は「ルッツを守るために」魔の森に挑む俺にくっついてきてくれるのだ。学校も休学し、王都で望みの地位をくれるという王室の誘いも断って……
「ベアトお姉様は、王族のお務めから離れられませんものね。お姉様の分まで、ルッツと……むふふっ」
「グレーテルお前、性格が悪くなったのではないか?」
「ルッツに染められてしまったのですわ」
「何でだよ!」
俺の反応を見た二人の少女が、明るい笑い声を上げる。ああ、なんか俺、幸せかも。
◆◆◆ 三章は前章と違って種付け多めの予定ですw なお本日から隔日更新となります ◆◆◆
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