第34話:末路
罪人を移送するような質素な馬車で王都へ連れて行かれたリシェは、王宮の地下室に居た。
目の前には見た事の無い男と、同僚の女。
ただし同僚はリシェと同じように拘束されている。
「なるほど。誘惑に弱くて、他人の能力に抗う力は無いと。他国へ潜入させて使うのは無理ですね」
王太子の最側近であり宰相補佐のロドルフ・コーネイン卿がリシェの前に立つ。
「それにアレクからは嫌悪されてたって報告があります。能力の検証では全員多少の好意が確認されたって話でしたが、ちょっと怪しくなってきましたね」
ロドルフがリシェの顎を掴み、自分の方へと顔を向けさせた。
「せめてもう少し美人ならばな。これでは猿だ」
ロドルフはリシェの顔を右に左に動かしてから、馬鹿にするように笑った。
今の台詞は、当然リシェを傷付ける事が目的である。
リシェが高等学校入学式で王太子に魅了を掛けさえしなければ、王太子夫妻の関係がここまで拗れる事は無かったからだ。しかも仕事では裏切る危険も発覚したし、あまり役に立たない事が判明した。
可愛い生徒達の人生を悪い方向へ変化させた女。傷付けたくもなる。
完璧な王太子妃であるセシリアだが、王太子以外に想う人が居るのはその態度や表情で判る。しかし、いくら調べても該当する人物は見つからない。
学生時代の負い目があるので、アレクサンデルも強く問い詰める事も出来無い。
そのギクシャクした関係が、周りにも何となく伝わっていた。
「探しても見つかるわけが無い」
ロドルフは呟く。
セシリアの心の中に居るのは、辛い時期に自分を支えてくれた、本来なら居るはずの無いアレクサンデル自身だ。
封印された恋心だったからか、本当のアレクサンデルよりも素直で、セシリアへの好意を隠そうともしなかった。
「またいつか会えたら……いや、そもそも存在しない人間ですからね」
ロドルフは星の瞬く空を見上げた。
これからもずっと、夜空を見上げるたびに思い出すのだろうな、と苦笑した。
自分と同じように、夜空を見上げているであろう王太子妃セシリアの心情を思いながら。
「りしぇ……あんた、きょうはなんにん?」
妙に舌の回らない女が同室の女に問い掛ける。
「知らない。どうせアタシは手足を拘束されて、
リシェと呼ばれた女が答える。
「あれ? でもあんた、きのうはなにもつけないでいかなかった?」
呂律が回らないのは舌が短いからのようで、女が口を開けても舌先が見えなかった。
「昨日は王様相手だからね。馬鹿な決定下しそうだからって、宰相補佐に寝所に行かされた」
大して美味しくない食事を食べながら、二人は会話をしていた。
二人の仕事は、表に出られない仕事をする男達の欲を受け止める事だ。
舌が短い女は、上手く話す事を禁じられ、舌先が切り取られた。それにより味覚が変化したのも、罰の一部なのだろう。
もう一人の女は、自分から男に触れる事が禁止された。その為、事に及ぶ時は四肢を拘束され、口には猿轡を嵌められる。
話をしないで一方的に穴に入れられるだけでは、能力は発動しない。
当然、それを監視している者が居るので、待遇改善など夢のまた夢だ。
どこで間違えたのかなぁ……無遠慮に突き上げられる為に激しく揺さぶられる脳で、リシェはボンヤリと考えていた。
終
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最後までありがとうございました。
処刑エンドと迷ったのですが……ロドルフ先生なら、最期まで能力を利用するかなと(笑)
封印された王子、頑張る 仲村 嘉高 @y_nakamura
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