変わらない笑顔

ナナシリア

変わらない笑顔

『そろそろ会えるよ』

『そっか、楽しみだな!』


 中学を卒業した後、彼女は東京のそれこそほぼ中心から、千葉県の南部へ引っ越してしまい、彼女と付き合っていた俺は遠距離恋愛を余儀なくされることとなった。


 その影響で彼女との主な会話ツールはメッセージアプリということになるのだが、アプリ越しでも彼女の変わらない笑顔が思い浮かぶようだ。


 この場所から彼女が住む場所までは八十キロメートルくらいの距離だ。


 徒歩じゃ逆立ちしても行けないような場所と、手軽にメッセージが出来る現代の技術は凄まじい。感謝しかない。


 それで、俺たちはメッセージアプリでほぼ毎日連絡を取り、定期的に顔を合わせている。


 そのおかげか、俺の彼女への気持ちが冷めることはない。


 時には彼女の家の近くで、時には俺の家の近くでデートをする時間は至高というほかなかった。


『それと、次会った時にすごい良い報告が出来るかも!』


 彼女からのメッセージだった。


 開いてすぐに返信を送信する。


『報告ってなんだろう、楽しみ!』


 その後、何往復かメッセージのやり取りをする。


 そろそろ頃合いか、という時間でお休み、というメッセージを送る。この辺りは俺たちにとって習慣となっていた。




「久しぶり、会うの楽しみにしてた!」


 彼女の姿を見つけると同時に、彼女が引っ越した当時、そしてちょくちょく会っている最近とも変わらない笑顔が目に入る。


 いつもは八十キロも遠くにある笑顔が近くに見られる瞬間は、控えめに言って最高だ。


「俺も、楽しみだったよ。まずはどこに行こうか?」

「その前に、報告をさせてほしいんだ!」

「良い報告ってやつだね」

「そうそう!」


 俺はその報告が行われるのが楽しみで仕方なかった。


「なんと、東京に帰れることになりました!」

「マジ!?」

「そう、前住んでた家のすぐ近くに、ちょうどいい物件があったらしくて。私たちの都合もついたから、って」

「毎日会える?」

「うん、毎日会える!」


 嬉しいという既存の言葉だけでは片付けられないほど気持ちが高ぶる。


 会うたびに八十キロ遠くにある笑顔、とか五十マイル遠くにある笑顔、とか単位のバリエーションを変えながら考えていた。


 それが今後は、一キロとかすごく小さな単位になるということだ。


「毎日会えるなんて、最高だ!」

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変わらない笑顔 ナナシリア @nanasi20090127

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