第21話 クリスマスと言えば……

手を繋ぎ外に出た2人。

今日こそ練りに練って練りこんだ風花のデートコースの見せ場だ!


「綾花? あっち行こ?」

「え? あっち〜? いいけど……」


まず向かったのは駅……の近くだった。


「クリスマスと言えば……?」


そう風花が聞く。ただ答えは分かっている。

綾花の好みは完全に把握しているからだ。


「チキンー!」

「だよね! 知ってた!」

「ならなんで聞いたー!」

「別に良いじゃん〜、それよりここ見て?」


そう言いながら指差す先には、超高級レストランがあった。

予約5ヶ月待ち、どのサイトを見ても星5の超有名なレストランだ。


「え……? ここ? まだお昼だよね?」

「うん! 今日のために予約取ってたんだー!」

「す、すげぇ……てかお金……」

「じゃん!」

「そ、それは!」


風花の人差し指と中指の間に挟まれていたのは……ブラックカード……

いや、なんで未成年が持ってるんだよ……


「ねぇね、未成年だから使えないでしょ!」

「えへ、バレたぁ〜?」

「そりゃバレるよ!」

「まあまあ、大丈夫だよ」


そう言って財布を取り出す風花。

その財布は……お金が詰まりすぎて膨れ上がっている。

いや、キャッシュレス反対派かよ……


「ね? 行こ?」

「う、うん……」


正直なところ綾花は今とてつもなく不安だ。

もちろん綾花は緊張している。

風花は相変わらず能天気。


「うわぁ……すごい……」


店員さんに案内されたテーブル。

テーブルですらめちゃくちゃ高そうだ。

これが超高級レストラン……


「お待たせいたしました。こちら前菜の、ナムル3種盛りとなります。」

「やったー! ありがとね〜」

「ねぇね! ここ絶対そういうテンションで来て良いとこじゃないよ!?」


運ばれて来たのは、小さなお皿に少しだけ乗ったナムル。

ほうれん草、人参、もやし……ほんとによくあるナムルとしか思えない……

ただ量が少ないだけで、どこのお店にもありそうだ。


「い、いただきます……」


そう言って口に含んだ瞬間。


「!」


口の中に広がる塩味とごま油の風味、そしてうまく掴めないが、なにか隠し味が全体をまろやかにまとめている。

鼻から抜ける香りも心地よい。


「どっ? 美味しい?」

「めっちゃ美味しい! 最高だよ! ねぇね、連れてきてくれてありがとう!」

「どういたしまして〜」


そう言って風花もナムルを口に含んだ。

ほっぺがとろけそうな表情になりながら微笑む。


「ねぇね、すごい美味しそうに食べるね?」

「そりゃ、美味しいもん!」

「そ、そっか……」


そんな話をしていると……


「こちら、馬刺しユッケのトリュフ添えでございます。」

「ありがとねー! ナムル美味しかったよー!」

「だから! ねぇね、今はそのテンション禁止!」

「えぇー! やだぁ!」

「むぅ……」


頬を膨らませ怒る綾花……

やっぱり可愛い……


「いいから〜、食べて〜?」

「あっ、うん、そうだね」


そう言って卵黄に箸を通す。

溢れ出る卵黄の滝が照明の光を受け輝く。

その滝にユッケをくぐらせて1口……

程よい塩味と甘味が舌を刺激する。

そしてユッケの食感。他店では味わえない肉の甘み。

馬刺しなのに臭みが全く無い。

これこそ究極のユッケ……

次に大きなトリュフを箸で挟み、これもまた卵黄の滝にくぐらせる。

まろやかなトリュフの風味が口内を満たす。

幸せ……

そして鼻を抜ける香り……

やっぱり幸せ……


「おーい? 綾花ー?」

「わぁ!」

「美味しすぎて意識飛びそうなってない?」

「なってる……」

「まじかぁ、じゃあ私もー」


そう言って風花は1口頬張ると……

目をとろんとさせる。


「あぁ、うん、そのレベルで美味しいけど」

「うまぁ……」


そう言って味わいながら食べる2人。

ちょうど食べ終わるところで……


「こちら本日のメインディッシュとなります、七面鳥の照り焼きでございます。」

「うわぁ! 美味そう! ありがとねー!」

「だ・か・ら! ねぇね……?」

「はいはい、いいから食べよ?」

「食べるけど……」


正直そんなことどうでもいいくらい楽しみだ。

迷わず照り焼きにフォークを通す。


「うわぁ……」


ホロホロとほぐれていく照り焼き……

七面鳥の丸焼きなので骨があるが綺麗に身が

取れる。

そして口に入れたとたん鼻を抜けるハーブの香り、そして口いっぱいに広がる肉の甘みと旨み。

照り焼きソースの甘みも程よく広がる。

また、ソースにとろみがあるのでしっかり肉に絡まっている。


「うんまぁ……」

「んじゃ、私もいただきまーす!」


そう言って風花も照り焼きを食べた。

目を閉じて天を仰ぐ。


「美味いねぇ……」

「めっちゃ」

「いやー、幸せだねぇ」

「まじで幸せだわ」


幸せなお昼ご飯だった。


・ ・ ・


コースを食べ終えた綾花はあることが頭から離れない。

それはもちろん値段だ……

そして風花にエスコートされながら出口まで行くと……


「ありがとうございました!」


店員さんの元気な声が響いた。


「あれ? お会計は?」

「んー? 今日はねー、事前に済ませておいたー!」

「そ、そっか……」


風花が事前に会計を済ませておく……

すなわち綾花に見せられない値段だということだ……

なんでも安いと言って支払う風花が安いと言えない……そんな値段……


「もしかして……3桁……」

「うん! せいか〜い!」


やっぱり桁違いだった……

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深夜2時、引きこもりの弟がTSしてた。 龍花 @dragon-flower

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