第39話 ボクが世界を壊す……? 嘘ですよね!?

 レオードは不敵に笑うと、焚火の周りに刺さった串焼きの一つに無造作に手を伸ばす。くんくんと鼻を鳴らすと大口を開けて齧り付いた。


「お、うめえな、これ。コウゲイテイトウか?」


――コウゲイテイトウ……? 魚の名前? いやそんなことより!


「みんなはどうした!?」


 レオードは大げさにため息をつき、笑みを浮かべて答える。


「かぁ~っ!! 相変わらず随分な挨拶だな。安心しろ、ちょっと静かにしてもらってるだけだ」


 レオードは親指で浜辺を指差す。そこには、テンの触手で貼り付けにされているセシルとアズがいた。


「テン……!? どうして!!」


「ゴ……ゴメン……」


「んん~っ!!」


 縛られた二人が何かを叫ぶが、口がふさがれていて聞き取れない。


「俺が命令したからだよ。おまえとゆっくり話すためにな」


 レオードの愉悦混じりの声が響く。やはり、やはりコイツが。


「じゃあ、テンは……」


 にやりと口角を上げてレオードはボクを指差した。


「お、察しがいいなあ? そ、こいつは試検体№010イソヅルダイケン。俺のペットだ!!」


 レオードは両手を広げて空を仰いでべらべらと喋っている。


「んはぁ……カワイイだろ?」


 テンに縛られた二人を見てにやにやと下衆な笑みを浮かべる姿に、ボクの中で何かが弾けた。


「どこまでもふざけてっ……今すぐ二人を離せ!」


 レオードは手のひらをボクに向ける。


「おいおい、そんなにかっかするなよ……それとも、こういうのをご所望か?」


 レオードはテンに向けて手を伸ばしサインのようなものを送った。


「んんっー!!!!」


 拘束が強くなり二人が顔をしかめて絶叫した。


「なっ!? やめさせろ!!」


 レオードは不敵に笑い、串でボクの足元を差す。


「まあ、座れって」


――くそ……今は、従うしかない。2人のためにも。


「話ってなんですか……」


「にらむなよぉ……。あ~、ここにたどりついたってことは、俺のメッセージは観たんだろ?」


 レオードは眉を下げると魚に喰らいついた。


「武器庫のやつのこと? お礼なんか言わないからな」


「ぷっ……あっはっは! こいつは傑作だ」


「な、なにがおかしいんだよ!」


「礼なんていらねぇよ。そうじゃねぇ……お前が鍵って話だ」


「ボクが鍵……?」


 レオードは首をかしげて眉根を寄せた。


「あ? 言ってなかったっけか? まあ、いいや。お前だけは絶対に先に進ませるわけにはいかないって言っただろ?」


「それが、なんだって……」


 レオードの意図がよくわからなくて溜息をついたとき、ボクにある考えがよぎった。


――そういえば、セシルの手帳によると「ヤツを止めるため」に手帳の持ち主はダンジョンの奥に進んだんだよね。「ヤツ」が博士であるとすると……


「まさか……ボクが博士の計画に関わっているの?」


「ほぉ、察しがいいじゃねえか。その通りだよ、お前が博士に捕まると全てが終わる。だから閉じ込めたってのに」


 途端に目の前が黒く塗りつぶされていく錯覚に陥った。元の世界に帰るために先に進んでいたのに、それなのに……。


「……博士の計画ってなんなんだよ」


 拳を握りしめ、絞り出すように声が出た。


「世界の再構築だよ。お前の力を使ってな」


 顔を上げると、腹を半分以上食われた魚を貫いている串の先端がボクに向けられていた。持っているレオードはひどく真剣な表情である。


「ぼく、が……?」


「ヤツは世界を全て壊してから、なにもかもを作り直すつもりなんだよ」


 レオードは苛ただしげに魚に噛みついて、ろくに咀嚼もせずに飲み込んだ。


「つまり、ビッグクランチとビッグバンを人為的にやっちまおうってわけ」


 ボクは思わず立ち上がり、虚ろな瞳の魚を見つめるレオードに詰め寄った。


「じゃ、じゃあ!! ボクがいた世界も! お母さん、お父さん、お姉ちゃんも!! みんな、なくなっちゃうってこと!?」


「そういうことになるな」


 特段変わった様子もなく呟くレオードに、ボクは膝をついてしまった。


「わかっただろ? お前はこれ以上進んじゃダメなんだよ」


 頭上から、冷淡な口調で囁かれる。しかし、それが、ボクの心を冷静で強いものに変えた。


「みんなが……いなくなる」


「ああ、そうだ」


「だったら、なおさろ行かなきゃ」


「あぁ?」


「ボクが博士を倒してお姉ちゃんを、みんなを守る!」


 立ち上がり、レオードの顔をしっかりと見つめて言った。


「お前のせいで世界が崩壊するかもしれないんだぞ?」


 レオードは今までで、一番不愉快そうに目を細めてボクを睨みつける。だが、ボクはひるまず答えた。


「それでも、ボクは行く。家族を助けるために!!」


「はぁ~……言うと思ったぜ」


 レオードは大げさに溜息を洩らしながら、腰からナイフを取り出して、構える。


「なら、仕方ねえ……言うことを聞かねえガキはしつけないとなぁ!?」


 残りの魚を骨ごと口に含み、レオードはバリバリとかみ砕いた。さも美味しくなさそうに無理やり飲み込むと串を投げ捨てる。


「構えろよ、琥珀」


 ボクを見つめる瞳の淀んだ底に、得体のしれないナニカが潜んでいた。

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はじめての空想科学迷宮 ~異次元人のおねえさんに見初められたボクは死ぬらしい。「嫌ならダンジョン攻略しなさい」って無茶言わないでよ! 葉花守にしき @HaKaMori2525

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