第5話 ケーキ食べ放題で餌付け?
「え? カフェテリア?」
「ええ。鮫浜学園にはカフェテリアがあるの。どこかの三ツ星シェフも常駐しているの。お昼休みはそこに行けば大体何でも食べられるわ! だから行きましょ」
昼休み。俺はヤンキー女子高洲改め、はぐみと一緒に鮫浜カフェテリアにやって来た。
鮫浜は中高一貫のマンモス校。そうなるといわゆる学食だけではさばききれなくなるということで、学園の偉い人の特権で学校とは思えないカフェテリアを作ったのだとか。
学校内とは思えないくらいの大きすぎるガラス窓にテラス席があって、とてつもなく巨大な空間が広がっている。
「ふふん、驚くのも無理は無いわね。特にあなたのような人間は」
「……俺がどこから来たのかってはぐみに教えたっけ?」
「愚かね。当然だけれど、高洲ハウスに暮らすことが決まった時点で全て把握してるわ! あたし高洲だし!」
やたらと高洲を連呼するけど、相当に高いプライドを持っているんだろうな。昨日の今日で俺はまだ経営している夫妻に会ってもいないんだけど。
「高洲のことは理解してるけどね……」
俺を居候させてくれているわけだし、たぶんずっと言われるだろうな。
「そんなことより、日差したっぷりのテラス席に行きましょ。あたしもお日様に当たりたいの」
そう言うと、はぐみは空いているテラス席に向かって俺を引っ張りだした。
通常だったら俺が先に席を確保してゆっくり座っててもらうのが正しいんだろうけど、何も知らないからここは彼女が主導で動くのが正しい。
言われたとおりテラス席のいいところを確保しようとすると、俺たちより先に座ろうと近づく生徒が何かに気づいたかと思えば全然座ろうとはせず、全く近付かない現象があった。
俺を誘ってくれたのはいいけど、もしかしてはぐみって――
「――ぼっちじゃないから!!」
「まだ何も言ってないよ?」
「嘘! 他の女子を見てからあたしのことそうやって見てたし! 視線の行方とか、考えてることくらい分かるし!!」
「そ、そうなんだ……それはすごいね」
ヤンキー口調の時は全然俺に興味無さそうだったのに、素を出してからやたらと俺のことを見てるってことなんだろうか。
もしくは教室でキレたことで監視対象として見てる?
どっちにしても高洲ハウスの女の子なわけだし色々と間違っちゃいけないな。
「ねぇ、ドリバー行くでしょ?」
「ドリ……ンクバーだっけ。確か飲み放題の――」
「そ。元々このカフェテリアには無かったのだけれど、昔パパが働いていたファミレスのおさがりを置いてくれているの。年季ものだけど問題は無いってみんな言ってるわ」
パパさんのおかげでドリンクバーが設置されてるとなると、鮫浜学園の生徒は高洲家に頭が上がらないってことになる。
それならテラス席の扱いにも納得出来そう。
「……どう? まだまだ現役じゃない?」
案内されたドリンクバーの前に行くと、使い古されているとは思えないくらいピカピカに磨かれたディスペンサーがあった。
レバー部分は年季が入っているものの、メンテナンスがしっかりしているのか問題無くドリンクが出てきている。
「どれくらい前の?」
「んーとね、パパがアルバイトしてた時って言ってたから結構前じゃない?」
高洲パパが高校生くらいだった時だとしても、ファミレスはもっと前からあるはずだからかなりのものかも。
そんなドリバーに驚きつつ、俺とはぐみは日替わりランチを注文して席へと戻る。
「ここはね、朝昼放課後いつでも食べられるの。でも放課後は必要無いと思わない?」
「どうして?」
「だって高洲ハウスでパパの手料理が食べられるし。余計に食べる必要なんてないじゃない」
「……まぁ、そうだけど」
「でしょ? とにかく食べましょ」
ママよりもパパのことが大好きな娘みたいだ。言葉遣いはおそらくママさんの影響があるんだろうけど、高洲夫妻の関係性が気になってしまうな。
パパさんの手料理はまだ頂いてないけど、ここまで言うならかなり気になる。
「そういえばさっきぼっちじゃないって言ってたけど、友達がいるなら俺のことは気にしないで明日からは友達と食べてもいいよ」
栢森先生の気遣いで和久利が友達になったわけだし。
「それは無理ね」
「え? 何で?」
「あなたって、誰かと一緒にいたい人だもの。違う?」
まぁぼっちよりは誰かがいた方がいいけど。
「クラスで出来た男友達もいるし、仲を深めないと……」
「ふーん……男の子が好きなのね?」
そうは言って無いのに。そんな風に聞こえるんだろうか。
「そういうことならあなたを試すわ!」
「え? 急に立ち上がってどこへ?」
「あなたの為に持ってきてあげるわ。そこで大人しく座っていて!」
試すとかなんとか言ってたけど一体何を――かと思っていたら、シェフを何人か引き連れてはぐみが席に戻って来る。
「……へ?」
俺の驚きを気にせずに、次々とテーブルに甘そうなケーキが並べられだした。
「さぁ、お食べなさい! あなた、好きでしょ? ケーキ」
「嫌いじゃないけど、そんなそこまでは……」
「つべこべ言わずに食べるの! 本当は個数制限があるんだけれど、あなたは特別にケーキ食べ放題にしてあげるから、食べて!」
試作品のようなケーキも混ざっているようで、色とりどりのケーキがテーブルいっぱいに置かれてしまった。
周りに他の生徒が近寄らないことをいいことに、俺ははぐみとシェフたちからの視線を一斉に浴びまくっている。
「は、はは……甘いね」
「ケーキだもの。たくさん食べていいからね! 食べ終わった後に判断して、あなたを紹介してあげるんだから!」
「え、うん」
俺を試すとか紹介するとか、はぐみは俺に一体何をしようとしているんだろうか。男の子が好きと誤解されたことと何か関係があるとしたら、それはそれで怖い。
「美味しい?」
「うん、もちろん」
「そ。それならきっと合格ね」
――何が?
「ふふん、愚かじゃなければきっとあの娘のことも大丈夫に決まっているわね」
限りなく白に近いあの子が実は黒だった件~それでも俺は間違ってない~ 遥 かずら @hkz7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。限りなく白に近いあの子が実は黒だった件~それでも俺は間違ってない~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます