第4話 ドリバー美少女と禁句
「――というわけで、編入してきた花祭優だ! みんな、仲良くしてやれよー」
編入初日となったこの日。
俺は私立鮫浜学園二年の教室で、気の強そうな女性担任からクラスの人たちに紹介された。担任で体育教師でもある
そんな栢森先生は施設出の俺に対し、ただ一言、『問題無い』などと言ってくれたので目つきや態度はともかく男気全開の女性であることを理解した。
栢森先生曰く、
「心配すんな! 鮫浜学園の女性教師はみんな口が悪いけど、いい奴しかいないから!」そう言いながら、俺の肩をバシバシと音が鳴るくらいに調子よく叩いて満面の笑みを浮かべていた。
鋭い目つきで一見怖そうに見せたものの、きっと筋は通っている人に違いない。
教室に案内される前に何やら気を遣われたようで、先にクラスメイトの男子を紹介してくれた。
「よろしくです」
「うん。よろしくね! 僕は
「じゃあ俺も優って呼んでもらえると……」
「優くんだね。これからよろしく~」
……優くんという呼ばれ方をされると、未だに会えていない幼馴染の育のことを思い出してしまう。高洲ハウスに確かにいるはずなのに、妹の部屋からほとんど出なかったせいか幼馴染には全く遭遇出来ていない。
「どうかした?」
「いや、何でもないよ」
「あ、そうだ。休み時間になったら他のみんなとも話をするよね?」
「えっと、男子とだよね?」
「うん。僕のクラスは女子の方が多いけど、男子だって少なくないから友達は多い方がきっといいよね」
高洲ハウスではまだ住人をあまり見かけていないものの、妹によれば鮫浜学園の関係者を含めて女子が圧倒的に多いと言っていた。
俺の主観では何故か気が強そうな女子ばかりっぽいので、行動と言動には気をつける必要がありそうだとも思ってしまう。
栢森先生の紹介後、俺の席は真ん中の一番後ろにされた。しかも隣の席には意図的ともいうべき女子が座っている。
「……人の顔をじろじろと……何かあたくしに用がおありですか?」
「いや、特には……」
「言っときますけれど、あたくしの素はこちらなので。くれぐれも誤解の無いようにお願いしますわね?」
「そ――」
んなバカな――と言いかけたものの、不自然な言葉遣いでもなさそうだったので今は下手に刺激しない方がいいと判断した。
高洲ハウスではヤンキー女子だったのに、学園の中でわざわざ高貴な令嬢を演じているでもないので、多分荒々しい口調は俺だけと判断するのが身の為かもしれない。
それというのも授業が開始されて早々に彼女がとった行動は、敵意の無い『優しさ』しかなかったからだ。
特に分からない問題なんかを体を寄せて教えてきた時は、うかつにも好きになってしまうくらいの優しさが感じられた。
「あなた、お昼休みの予定は?」
「和久利に案内してもらおうかなと……」
「あたしよりも男の子がいいってこと?」
何か別の意味に聞こえてしまうのはどうしてだろうか。
どう返事をするべきか迷うところではあるけど、令嬢言葉が素なら学校では素直に言うことを聞いても良さそう。
「ち、違う。それじゃあお昼ははぐみんにお願いす――」
「……は?」
しまった。はぐみんは妹が呼んでいるだけだ。
「た、高洲さんにお願いするよ」
「それではドリバーに行きましょ」
「ド、ドリ……?」
「ドリンクバーよ。そんなことも知らない……あぁ、あなた辺境から出てきたのよね。あなたの知る男の子もかつてはそんなことを言っていたわね」
「――!? 男の子? まさか
さぁ? といったお手上げポーズを見せる高洲は、俺を見ながら呆れたように首を振っている。
その態度に思わずカッとなって彼女の胸付近に手を伸ばしていた。
「……今すぐその手をどけないと、あなた退学追放処分になるけれどいいの?」
しまった、何で彼女に対してこんなにカッとしてしまったんだ?
しかも俺がこんな行動に出るなんて信じられない。別に育のことを馬鹿にしたわけじゃないのに。
「ごめん……本当にそんなつもりはなくて」
俺の言葉に彼女は顔を近づけながら、
「ううん、あたしも怒らせるつもりなんてなかったの。ごめんなさいね」
「……俺もごめん」
「あたしたちが後ろの席で助かったけれど、そんなに頭に血が上る子だったの?」
「いや、違うよ」
未だに出会えていない育のことを気にしすぎなんだろうな。
「怒らせたお詫びというわけではないのだけれど、あたしの名前を呼ばせてあげる」
「……はぐみん?」
「殴られたい?」
これは禁句だった。親しくもない状態で愛称で呼んだら怒るよな。
「でも、半分当たっているのだけれど」
はぐみんの半分ということは?
「みん?」
「愚かね。そうではなくてあたしの名前、はぐみなの。学園の中では名前で呼ばせるほど仲のいい子はいないのだけれど、あなたなら許してあげる」
俺が頭にきてしまったことを理解して少しは気を許してくれた感じだろうか。はぐみ……はぐみん。なるほど。
「とにかく、お昼休みになったら一緒に行きましょ」
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