第3話 はぐみん
施設で別れた妹とまさかここで再会出来るなんて、さすがに予想してなかった。
しかも当の妹は全然驚かずに、
「お兄ちゃんってえっちぃ男の子だった? ノックもしないでお約束の展開を期待どころか襲ってくるなんて冬姫、反応に困っちゃった」
こんなことを聞いてくるし。
「断じて違う! というか、妹相手に欲情するわけないから安心していい」
……でも何で下着姿で寝転がってたんだ?
それも全身真っ白な可愛らしい下着で。俺とすぐ気づいても恥ずかしがる仕草も取らなかったし。
この際、冬姫が下着姿のままでも構わず話を続けるとして。
「このまま別に着替えなくていいよね?」
「……俺は別に困らないけど」
「お兄ちゃんが良くても冬姫だけ損するから、サブスクでどう?」
「サ、サブスク?」
「冬姫の下着姿を定期的に見せる代わりにお兄ちゃんは冬姫におごるの!」
こんな子じゃなかったはずなのに……。
まさか勝手に下着姿を見せておいてお金を要求するとか。
「お小遣い稼ぎとかするつもりなら普通に服を着て欲しいんだけど……そもそも俺、そんな余裕ないし」
「あはっ、もちろん冗談だよ? まさか本気にしてないよね?」
「……だろうね。兄からお小遣いをせびるなんて冬姫らしくないし」
「でも時々でいいから何かデザートおごってね?」
それくらいなら出来るかな。だからといって部屋の中限定とはいえ、妹が下着姿でくつろぐ姿を望んでるわけじゃないけど。
「――でさ、お兄ちゃんはどうしてここにいるの?」
「そっくりそのまま同じセリフを返すよ」
「冬姫はイケボな人に声かけられて、いい感じに話が進んで~気づいたらここで暮らせるようになったんだよね~」
「イケボの人……ってそんな理由だけで?」
「正確に言うと、この近くにある鮫浜中等部に通ってるからなんだ~」
鮫浜中等部というと、俺が編入する鮫浜学園の附属学校だ。さすがに校舎は分かれているようだけど、鮫浜学園自体とんでもないマンモス校と聞いている。
中等部にいるということは、いずれ妹も高等部に上がってくるという意味でもあるわけで。
「ここはどういう家なの?」
高級住宅にして集合住宅みたいだけど。
「んとね、シェアハウスっぽくしたって言ってた。掃除と洗濯は交代制で、食事はその人が作ってくれるんだ~。それとね、その人も鮫浜学園の出身なんだけど、元々は今いるここに自宅があったんだって」
そういえばヤンキー女子の高洲の家って言ってたけど、もしかして。
「そのイケボの人って高洲……って人?」
「そだよ。高洲さん。それで、高洲さんが大事にしてるのがはぐみん。可愛いよね」
「……はぐみん? え、誰?」
この部屋に来るまでに出会った人はイケボの人と綺麗な令嬢くらい。
「はぐみんに会った? というか、はぐみんにここまで案内されてきたんだよね?」
「一応聞くけど、そのはぐみんの正しい名前は?」
「え。知らな~い! ここに来てからはぐみんってしか呼んでないし。漆黒の黒髪がすっごいサラサラしてて、手足が細くてすっごい可愛い人なんだよね~!」
「嘘だろ? あの言葉遣いの悪すぎるヤンキー女子が!?」
漆黒の黒髪はイケボさんの隣にいた令嬢さん、それとヤンキー女子の高洲しかいない。名前を教えてくれなかったけど、はぐみんって呼ばれていれば隠したくもなるか。
「うっそだぁ~。はぐみんってすごく甘い声だし誰にでも優しい女の子だよ?」
「…………そ、そっか」
じゃあ俺へのあの態度は遅刻した罰?
「それとね~……」
冬姫が言いかけたところで、誰かがドアを叩く音が響く。
「はいは~い! 開いてま~す!」
「いやっ、待っ――」
俺はともかく妹は完全なる下着姿。相手によるとはいえ、どう考えても怒られてしまうパターンだ。このパターンでいけばヤンキー女子のような気もするが。
「…………お邪魔しますね、冬姫さん」
「あっ、はい!」
……違った。あの荒々しい高洲じゃなかった。でも、この女性から感じる気配はどことなく冷徹さを感じる。
「可愛い下着ですね。でも、隣に座っている男の子に何かされてからでは遅いんじゃないですか?」
「ご、ごめんなさい。あのっ、でもこの人は冬姫の兄なんです。だから下着姿を見せても全然何も起きないので、姫さんが心配するようなことは……」
冬姫に似た名前の女性だ。でも何だか恐ろしい気がしてならない。
「は、初めまして! 俺、いえ僕は――」
「僕とか普段使ってないんでしょうし、無理しなくていいですよ。花祭さん」
「あっ……はい」
「なるほど。……全く、湊さんも相変わらずですね。男の娘っぽい人に甘いというか、それで勘違いするなんて」
もしや俺の見た目が何か影響を与えてしまったんだろうか。女の子と思われることはよくあったけど、言われたことはあまり無かった。
それでも、やっぱり見た目だけで判断されて妹と同室にされた気がするな。
「もしかしなくても女子だと思って妹と同部屋にされた感じですか?」
「そのようです。でも別に構いませんよ。下着姿でも欲情しないお兄さんなら、妹さんも安心でしょうし」
全く意識しないといえば嘘になるけど、口に出して言ったら終わる。
「あの、あなたは……?」
「私ですか?」
「は、はい」
名前を聞くだけで緊張するのは何でだろうか。冬姫に対しては普通なのに、俺に冷たい気がするのは気のせいじゃないよな。
俺の質問に対し、シルバーアッシュに染められたショートヘアの女性は短い髪をかきあげながら冷めた目つきで口を開いた。
「私は
何を言われるかと思えばやっぱり男嫌いの人だった。しかし高洲改め、はぐみんの他にこの池ヶ谷さんもきついとか、俺への洗礼が半端ない。
それに、俺に相応しい子がいるとか言われても困るけど。
「それでは冬姫さん。お兄さんによく言い聞かせておいてね」
「は~い」
妹が可愛いままなのは良かったとして、結構ハードな居候生活になる予感しかしないのは気のせいだろうか。
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