第2話 俺の部屋に妹がいた件
高洲?
どこかで聞いたような気がするけど、どこだったっけ。
「何してんだよ? 早くついて来いよ! お前一人だけだとたどり着かないぞ」
「ご、ごめん」
「ったく、頼りない奴だな」
まだ出会って間もないのに早くも失格の烙印?
でもこれは俺が待ち合わせ時間をミスっただけだし気にしたら負ける。これからはしくじらないようにしないと。
「あぁ、そうだ……お前って人見知り?」
何を聞かれるかと思えば、そんなことなら自信を持って答えられる。
「もちろん、そうじゃな――」
「そうじゃなかったとしても、うちの家には色んな奴がいるから覚悟しとけよ? 特にお前みたいな礼儀知らずな奴は標的にされっから!」
俺の返事を遮ったばかりか、思わせぶりな脅し文句を言いながら悪そうに笑うなんて、見た目以上に裏がありそうな子だ。
黒髪美少女の高洲に大人しくついて行くと、高級住宅地の通りに差し掛かる。それこそ見渡す限りの高級住宅街ばかりで、俺には全く縁のない場所だと思った。
そう思っていたのに、ひと際目立つ真っ黒い建物の前で彼女は足を止めた。
見上げなくても分かるくらいの高そうな外壁は高洲の黒髪のように黒く、高そうなガラスは天井まで伸びたような大きな造りをしている。建物全体は拡張に拡張を重ねた三階建ての四角い造りで、横に長いマンションのような感じを受ける。
「……すげー」
自分がいた施設と比べるのもおかしいけど、こんな大きな家が存在してることに思わず声が出た。
「ふふーん! どう? うち、大きいだろー?」
「本当に大きい。もしかしなくてもここが俺の……」
「別にお前だけの家じゃないけど、誇っていいよ? 高洲家はすごいって!」
……高洲家?
ヤンキー女子の彼女の名字は高洲だったっけ。どうりで誇らしげにしているわけだ。それにしてもこんな高級住宅なのに何で俺を受け入れてくれたんだろうか。
高洲の口ぶりでは他にも居候がいるっぽいし、ここの夫妻が面倒見のいい人たちという単純な理由だけなのかもしれない。
「エントランスは中央の扉を開けて入るんだぞ?」
高洲が指差しをしている所には頑強そうな扉があった。
よく見ると左右にも出入り口ぽい勝手口が確認出来るうえ、二階の部屋同士で鉄格子に似た鉄製の扉も見えている。
「え、でも向こうにも戸口のようなものが見えるけど……」
「そこはお前には関係無い!! 興味を持ったりしたら追い出すからな!」
そんなに怒ることないのに。それとも彼女も近付けないほど怖い思いをしたことがあるんだろうか。
追い出されてもどうすることも出来ないし、とりあえず気にしないようにしよう。
「ぼさっと立ってないで中へ入れよ!」
そうかと思えば彼女はとっくに玄関に入りかけていて、俺に中に入るように急かしてくる。
「ご、ごめん!」
しかし、待ち合わせ時間をミスしただけで早くも俺を"下"にみてる彼女の態度には違和感しかない。でもこの家に居候する俺が強い態度に出られるわけがないし、今は『大人しい俺』を演じるしかなさそうだ。
「お、お邪魔しま……」
「違う。"ただいま"って言うだけでいいんだぞ? はい、もっかい!」
「た、ただいま」
そうか、そうだよな。
今日からここが俺の家――というか居候というか。でも帰る家だから間違いじゃないってことになるんだよな。
「ん、お帰り」
――と、俺に笑顔を向けた高洲がやけに可愛く見える。
何だろう?
何気なく彼女にお帰りと言われただけなのに、違和感がないのは何故なんだろうか。荒々しい態度から優しめの言葉に変わっただけなのに。
「よーし、じゃあお前はこのまま目の前に見えるエレベーターに乗りな!」
「エレベーター!?」
「そう。うち、凄い家だから。今日はお前が初めて来た日だから特別に使わせてやるから」
……ということは、普段は使っちゃいけないって意味か。
「数字の3を押せばすぐ着くぞ!」
数字の3くらい見れば分かるのに、何で子供扱いされてるんだ。
「自動扉が開いたら部屋がいくつか並んでるけど、名前のプレートがあるはずだからそこに入ったら自由にしていいからな。部屋に入って目の前にベッドがあるからダイブして柔らかさを確かめれば? 不具合が無かったら場所を自分でいいように動かしていいから。それとその部屋には……あっ――」
色々説明をしてくれたものの自動扉が勝手に閉まってしまった。後で許してもらおう。
それにしても本当にあるんだなエレベーターの家。
エレベーターの階数はBFから3Fまで見えていて、この家がいかに大きいかを物語っている。
静音なエレベーターは俺をすぐに三階へと運んでくれた。廊下へ出ると、高洲の言うとおり結構な数の部屋が見えている。しかし完全防音なのか、部屋の中の声や音は一切聞こえてこない。
『花祭』と書かれたプレート……あ、ここかな?
ドア上部にプレートがついている部屋はエレベーターを降りてすぐ隣にあった。しかも部屋の鍵はカードタイプになっていて、誰もが自由に入れないようになっている。
しかし俺の部屋になっているし、カードも抜かれていないみたいだし入れるはずだよな?
とにかくここが今日から俺の部屋なんだ。
――ということで、俺は勢いよく部屋のドアを開けて目の前にあるであろうベッドに向かって飛び込んだ。
「ひぁっ!? え、なになに、誰……?」
「――え」
「あれっ? ……お、お兄ちゃん?」
俺のことをお兄ちゃんとか、まさか俺の妹がすでに部屋の中に?
「ふ、
「そうだよお兄ちゃん。冬姫だよ~」
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