46  迷路と星空 2

 『English Glamping英語しかしゃべってはいけない』迷路。

 だんだんと、亜紀と由良ゆらの難問クリアのピッチがあがってきた。


「まちがっても、命取られるわけじゃなし~」

 ふたりは、やけくその末に、ハイなテンションに到達した。

 第一、三択問題、最後には必ず正解する。


「私が、最初に答えましょうか」

 中盤に入って、Aクラス女子が申し出てきた。どうやら、黙って付き合うのに飽きたらしい。

「え、いいよ。正解言っちゃうでしょ、あなた」

 由良が断った。

「それだと、おもしろくないよね?」亜紀も同意。「あ、I don't think it’s exciting.」(エキサイティングではないと思います)


「白井さーん、由良ー! がんばれー!」 

 頭の方で声がするから、辺りを見たら、迷路を見下ろせる展望台のようなところがあって、そこに亜紀のグループの女子他、Cクラスの面子めんつがいる。

 亜紀と由良は、手を上げて応えた。


「Are you ready?」

 最後の問題の先生だ。

「Do you want some barbecue?」(バーベキューが食べたいかー?)


「Yes sir ‼」

 女子は叫んだ。




 その頃、迷路の出口は人だかりがしていた。

「何?」

 迷路の出口から出て来た小日向は、ちょうどそこにいたBクラスの新田暁にったさとるに声をかけた。

見届みとどたい。Cクラス女子が、迷路挑戦してるって。応援がすごくてさ」

 新田の指差した先には、迷路を見下ろせる展望台があって、そこにCクラスの生徒が集まっていた。


「……そこそこ問題、むずかしいのに。大丈夫かな」そう言った小日向に、「先生も生徒、見るっしょ」、新田は、小日向には先生、最難問出しただろうねと言いたげだった。


「にしても、容赦しない先生方だと思うけど」

「だよね~」


 展望台の女子が叫んでいる。

「白井さーん! あっと一問っ!」

「由良ぁ、決めろー!」


「え、白井さん?」


「そう、白井さん」

 新田が、意味深に小日向を見る。

「心配なんだ」


「……」

 その時点で小日向、新田の言うことは聞こえていなかった。



 

 亜紀と由良、Aクラスの女子が迷路出口に姿を現すと、グループの女子に歓呼でもって出迎えられた。


「待たせたねー」と、由良。

「もう、とっぷり日が暮れちゃってるよぉ」Cクラス女子と抱きあう。


「あ、あの、遠峯とおみねさん!」

 Aクラス女子が黙って立ち去りかけたのを、亜紀は追いかけた。

「……」

 呼ばれた女子は、無表情にふりむいた。


 体育ジャージの胸には、学籍番号とネーム(苗字)が機械刺繡してあった。それで、人の名前が覚えるのが苦手な亜紀でも、彼女の名字を忘れずにすんだ。

「ありがとうございました。助かりましたっ」


「何もしてません」

 女子は、表情筋が動く気配もなく答えた。亜紀は気にしない。

「えっと、名前、教えてもらっていいですか」 

「知ってるでしょ」

「遠峯さんの下の名前です」

 

 遠峯が無視して速足で歩きはじめても、亜紀はついていった。

 遠峯はめんどうくさくなった。

「……たまいと書いて珠良じゅらです」

 そのわりに、ていねいに答えてしまった。


「ジュラ。もしかして」

 亜紀が言いかけたのは無視した。




 遠峯は、自分のグループに帰ったところを佐久間に出迎えられた。

「どうだった? Cクラスさん、へこんでた?」


「えぇ。へこんでた」(めっさ、楽しんでたわー)

 事実とちがう答えを言った。


 高等部に入ってから、遠峯は佐久間の使いっぱしりのような立ち位置だった。

 別に自分は群れたいわけではない。と言っても、ひとりでは何かと学校生活は不便だ。どこかに所属することは保険なのだ。

 あの時も佐久間についていっただけだ。

 茶道部王子に誰が抜け駆けしようが、遠峯は知ったこっちゃなかった。

 

 佐久間の小日向に対する恋心は、ずっと知っているけども。

 その彼が、どうやら、ちんちくりんのCクラス女子を気にしていると、おかんむりで、いやがらせみたいなことをするのはどうだろう。


(脈、ないよ。あれ)

 そう、ばっさり言い切るまで佐久間のことを、よくも悪くも思う心は遠峯にない。

(勉強に専念しよ)






 そして、研修旅行も最後の夜。

 夜空でも晴れたと表現するのか。


 星空観察のために、生徒たちは寒さ対策をして中央棟玄関に集まった。

 亜紀もダウンジャケットを着込んだ。由良と柱の陰にいたら、小日向が亜紀をみつけてきた。新田を連れている。どちらかと言うと、新田がくっついている。


「今日、迷路、行ったんだって?」

 小日向は聞きたくて仕方なかった。

「ん。気がついたら、そういうことに。でも、遠峯さんが――」

「遠峯さん、いたの」


「アイツ、不愛想だろ」

 新田が割り込んだ。


「遠峯さんの名前、ジュラだった」

 亜紀も聞きたいことがあった。

「そうだよ。ジュラ紀のジュラだよ。〈古代地層ユニット〉だよ。なのに、遠峯、小日向の申し出を無視しやがって——」

「いや、暁新世ぎょうしんせい。遠峯さんを責めてはいけない。ゆっくり説得しよう」


「せ、説得」

 亜紀は引きつった。

「小日向君。いきなり、『〈古代地層ユニット〉を組もう』なんて持ち出されたら、いかな小日向君が、いい感じの男子としても、引くよ」

白亜紀はくあきは引かなかったじゃないか」

「かすかには引いたよ。びっくりし過ぎたから」

白亜紀はくあきに、びっくりし過ぎたって言われたら、ぼくが君を上回る変な人みたいじゃないか」

「変な人——」

 さんざ、亜紀が中学で言われてきた言葉だ。だが、小日向が口にすると、どうして甘いのだろう。


「とにかく、遠峯さんさえ承諾してくれれば、晴れて〈古代地層ユニット〉なのになぁ」

「いや、しつこく言っちゃダメ。きらわれちゃうよ」

「ぼくは女子にきらわれたぐらいが、ちょうどいいんだよね」


「非モテの男どもが聞いたら、刺されるぞ。小日向」

 いきなり、青木が現れた。

「ほーい」

 小島も、ひょいっと来た。



 生徒たちは、各々、懐中電灯ランタン2WEYなどで足元を照らしながら、中央棟の灯が届かない場所へ移動し始めた。普段は夜間立ち入り禁止の展望台で、特別に星空を観測するのだ。


「白井さん、星空はスケッチしないの」

 小島は、亜紀のクロッキーのモデルに追いかけまわされたから。

「ムリ。手元見えない」

「じゃさ。今日の、この星空をココロにスケッチしとこうぜぃ」


 小島、何をねらった。笑うところなのか。それ。

「――そ」 

「そうだね」

 亜紀より早く、小日向が返事した。と思ったら、つうって泣いてる?


「小日向君……」

 涙もろかったよなぁ、この人。改めて亜紀は思い出した。

 1mも離れていない、この人の涙をぬぐいたくてたまらなくなってくる。マズい。

 おまけに久しぶりで目が離せない。

 暗いし。多少、無遠慮にみつめたとしても許されるかっ。



「――白井さんがに入った?」

 ぼそっと、由良が小島に耳打ちする。

「うん、スゴイねー。レアキャラ同士の一騎打ち? みたいな」






 ※〈参考資料〉 『スター・ウォーズ  エピソード5  帝国の逆襲』

  外国語は翻訳機能に頼っています

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