第3話 収束

ドアノブをひねり扉を開けるとそこには今までと大して変わらない針金で覆われた部屋があった。


確かに針金の数はかなり増えている、床も壁も天井も針金覆われほとんど見えない。

しかしそれ以外は今までと変わりない見慣れた景色、他に変わった所と言えば針金以外は何もないという点、椅子や机くらいあってもいいはずだが……


まぁ今更感もある、このビルに入ってから一度もここの備品を見てない気がする、ここ以外の建物も今思えば不気味なくらいもぬけの殻だった。


(とりあえずなんか探してみるべ)


窓から差し込む光を頼りに針金に覆われた床を見渡す、どうせ何もないと思いきや鉄片のようなものが針金の間から飛び出ていることに気づいた。

近づいて見てみるも何なのかよくわからない、歪な形をしていて厚さと大きさは大体ガラケー位、その半分が針金に埋まっている。


(もしかして音の正体ってこれ?)


だとしたら少し小さい気がするがどうだろう、これがあの一階まで届く爆音を鳴らせるとは思えない、恐らく音の正体は針金同士がぶつかったことによるもの。


じゃあこれは何なのかという話だ、直接触れないよう袖越しで拾おうとしたその時、大した力も入れていないにもかかわらず半分に割れてしまった。


「あ……」


一旦残ったもう一片を観察してみる、ただの鉄かと思いきや片面のみに赤いバツ印のようなものが描かれ……いや、埋め込まれていた。

袖越しなので分かりずらいが若干凸凹している。


見た目では分からないが割れたのは劣化によるものだろうか、だとしたら針金とは関係ないただのゴミな気がする。

そう結論付けもう片方も拾い上げようと警戒を解き今度は素手で触れた。


後悔した。


針金には触れていない、これも同じ扱いのようだ、素手で触れるのはまずかった、次の瞬間には全ての針金がその場で激しく暴れぶつかり合い金属音を鳴らし続けていた。


そしてあの時のように……そんなもんじゃない、数が違い過ぎる、恐らく全ての針金が一度にここへ集まってきている。

見たところ中心は割れてしまった方の鉄片だ、それを理解すると同時に袖で掴んでいたもう一つの鉄片が針金に盗られ中へと飲み込まれる。


(あぁお前のなのね……)


もっと警戒しておくべきだった、全身から汗が噴き出す。

わざわざ袖越しで掴む必要はないと判断した自分が憎い、とりあえずあれが針金の一部というのは確か、又は本体だったのか……どちらにせよ人体に反応するのは変わりない。


最悪な状況になったと思うかもしれないが実際の所自分でもよくわからない。

もちろん足元の針金も収束している、しかし足は針金ではなく床についているので巻き込まれる心配はない、逆に言えば動けなくなったということなのだが……

それと今の所、針金同士がぶつかることはあれど自分には当たっていない。


問題は2つ―――


(錯覚? 集まってるはずなのに体積が変わってない……)


最初の段階で部屋にある針金はボール状に割れた鉄片を飲み込み収束を始めた、今も窓と扉から這うように入ってきている、擦れる音がうるさい。

それにも関わらず体積が増える様子はなくむしろ縮んでいるような気も……縮んでいた。


まぁこれは最後爆発でもしない限り大丈夫だろう、明確に危害を加えてきそうなのがこれだ、丸みを帯びた棒のようなものを複数の針金で形成し自分の方へ伸ばしてきている。


「……それ何ぃ?」


今までの経験では説明がつかない状況、自分は動けずもちろん心は穏やかではない。

この集まってくる針金なんて特にそうだ、金属製のメジャーを間違えて一気に巻き戻してしまった時のような徐々に大きくなっていく恐怖。


怖いで言えば体積を完全に無視して縮み続けるこの針金の塊、それと形ができてきたこのミミズのような針金、この二つも未知という部分で怖い。


しかしそんな状況も突如として終わりを迎えた。

足元を見ると先程まで床を覆っていた針金がほとんどなくなっており、周りの針金もかなり減っている。

そして最後の数本が針金に入った時、すさまじい金属音が鳴り反射で耳を塞ぐ。


直後m形成されていた針金がしなりその先を自分へと向け、そこから先程の鉄片二つが顔を覗かせた。

ミミズには目がないのでヘビにしよう、ヘビでいう目の位置に鉄片は固定され、バツ印の目がぼんやり光っている。


(どうしよう……何もわからん)


自分目線まず鉄片を拾ったら急にに全ての針金がこの部屋に集まってくる、終わったと思いきや残ったのは庭石程度の針金とそれに生えた何か、そこから全ての始まりである鉄片が光って出てきた。

目では理解できたが頭では理解できない、数秒後、最終手段に出た。


「おいなんか言えよハリガネムシ」


足で軽く蹴り問いかけてみる、ダメ元だったがまさかの反応があった。

言葉を理解したのか、はたまた攻撃と判断されたのか、形成された蛇型の針金が広がり残った庭石サイズの針金が萎むように飲み込まれる、それによって勢いがつきこちらへと飛んできた。


高速で行われたため一瞬何が起きたか理解ができずその理解できない内に針金の塊がみぞおちへと激突してくる。


「ぐぇッ!!」


衝撃で言えば犬に飛びつかれたくらい、大したことないが馬乗りになられ気付くと後ろに針金を回されている。


「いやちょっと……!!」


拘束しようとしたのだろうが腕は動かせる、抵抗しようと奴の体に指を食いこませ立ち上がりながら引き剥がすことに成功した。

相手の力は想像以上に弱くそのまま掴み直し壁に投げようと振りかぶり投げた。

しかしその際に腕を覆われそのまま残った針金の頭部(?)が鞭のようにしなり左足の脛へヒットした。


「アァッ……!!」


悶絶し、静かに左手で押さえながら崩れ落ちる。

右腕に目をやると針金で出来た巨大な蛇は動かず赤く光るバツ印の目でこちらをうかがっている、攻撃してくる気配はない。


ところでこいつは敵なのだろうか?

どちらかというの今のは自滅、最初の攻撃も自分が蹴ったから、もしくはそれきっかけで起きた針金の吸収によるもの。


(悪いの俺じゃないか?)


「てか痛ァッ……」


その後しばらく痛みに悶えたが針金が攻撃してくることはなかった。

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世紀末モジュール 生成り @rederi

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