35
部屋からダンボールを玄関に運ぶ。思ったより荷物多くなってしまったな。
「中谷、早く運んで。」
「なんで金澤が指示出してんだよ。」
「仕方ないじゃない。柚葉準備が遅いのよ。」
私は今日、このシェアハウスを出て行く。約3年間。誠と付き合ってからは1年。誠と一緒に同棲を始めることにしたのだ。正直、こっちに居た方が楽しいのが本音だ。女4人でお互い干渉し過ぎずに、気楽に楽しい時間を3年間過ごしていた。
私と誠が付き合ってから半年後くらいに朋に彼氏が出来た。正直これは予想外過ぎて、みんな凄く驚いたのだけれど、まともに恋愛したいと思える相手に出会えた、という朋の言葉で3人で大号泣した。
悠梨亜と麗奈は相変わらず、遊んだり、飽きたり、また遊んだりしている。
3人と誠が私の荷物を部屋から出してくれて、すっからかんになった部屋にひとりになった。
3年間なんて、学校と同じくらいの長さでしかない。だけど、高校の3年間が長く感じたのと同じように、この場所ではとても長くて濃い時間を過ごした。大人になってからこんなに楽しい時間を過ごせる場所があったのは、本当に恵まれていたことなんだと思う。それも全部、悠梨亜、朋、麗奈の3人のお陰だ。たまたま集まったのがこの4人でよかったなと思う。
「柚葉、荷物終わったよ。」
「トラック行くってよ。」
玄関から悠梨亜と朋の声が呼んでいる。
「今行く。」
返事をしてから、部屋を出る時にもう一度振り返った。
「ありがとう。」
小さく呟いたら、本当に終わってしまう感じが凄く寂しくなった。
1階に降りて、みんなでトラックを見送った。
誠は先に引越し先の家に行くと言って、車を走らせて行った。ここからそんなに遠くは無い。だからいつでも会いに来れるのだ。だけど、寂しいことに代わりはない。
振り返ると3人が並んでいた。
「柚葉、」
悠梨亜が潤んだ目で私を抱きしめる。
「いつでも遊びに来てね。」
「勿論。」
「喧嘩したら来るんだよ。」
「別れたら合コン誘うね。」
「辞めてよ、縁起でもない。」
「ごめんごめん、でも寂しいの。」
4人で泣きながら抱き合う。こんなに最高の友達が出来るなんて想像出来た?
「じゃあね、ありがとう。」
3人に手を振って新しい家に向かって歩き出す。
仕事終わりの澄んだ空気よりも、今日ほど好きだと思った瞬間は今までもこれからもないとそう思った。
「ありがとう。」
人生の中で好きな時間を沢山生みだしてくれたこの場所を、私は一生覚えてる。
桃色の熊と恋をした。 安神音子 @karasu_kuroneko
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