34


「篠原、抜ける?」



開始30分。自己紹介が終わって少ししたら熊が声を掛けてきた。勿論、私はいつものように誰にも興味のない顔をして、席の端でちびちびお酒を飲んでいた。



「早くない?」


「飲み直しに行こう。3人にはもう話してる。」



3人の方を見ると、悠梨亜は私にウインクをして、麗奈が頷いて、朋はひらひらと手を振っていた。ここまで協力的なのも怖さすら感じるのだが。



「3人に弱みでも握られてんの?」


「違うってば。協力してくれてるだけだよ。」



熊に連れられて店を出る。


少し歩いてから、また別の店に入った。


ふたりきりで席に座って、また1杯目のお酒を飲む。



「少しは俺のこと考えてくれた?」


「そうね。」



少しじゃない。



「中谷のことばっかり考えてた。」


「なにそれ。」



熊は、私と目線を合わせずにビールを飲んだ。耳が真っ赤。



「いいと思うよ、私も。」


「なにが?」


「中谷が。」


「そう?」


「うん。」



暫く無言の時間が流れる。この後の言葉は私じゃないはずだから、私は何も言わずに待っているだけ。


ずるい? そんなことないでしょ。


私だって女の子なんだから、言われたいのよ。



「好きだよ。」



って。


...ん?



「ん?」


「だから、好きだよ。篠原のこと。」



自分で自分の体温が上がっていくのが分かった。


好きだって、私のこと。


いや、知ってたけど。


そんなにストレートに言われると照れる。



「俺と、付き合ってくれる?」



熊の顔を見ると、耳を真っ赤にさせて私のことを真っ直ぐ見つめていた。


返事は決まってる。


だけど、私も恥ずかしすぎて何も言えない。


どうしよう。


自分ってこんな感じになるんだな、と思うほど体が暑くて仕方なかった。


私はテーブルの上にある熊の手を掴んで握った。


顔は上げられない。それが精一杯の返事。



「え、いや。俺ちゃんと言ったんだけど。」


「煽んな。」



私の手を熊が恋人繋ぎに握り返した。



「俺もちゃんと返事聞きたいって。」



そうね。


フェアじゃない。分かってる。


だけど恥ずかしいんだよ。


少しだけ顔を上げてちらっと熊を見ると、ずっと私を見つめていた。その目を私も逸らさないように見つめる。



「お願いします。」


「むふふ。ふふふ。」


「笑い方きもいて。」



熊は嬉しそうに笑っていた。


それを見て私も笑ってしまった。



「もう合コン行かないから。」


「当たり前だ。」


「金澤に怒られるかな。」


「その前に私が怒るからね。」


「そうだな。」



手を離してからもう一度乾杯した。

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