終夏
あ
終夏
夏が終わる。
暑い秋が始まり、早くて長い冬が待っている。思えば2年前。最後に彼女を恋人のかたちで見たのは、夏の始まるころだった。
夏。
かつての僕は冬が好きだった。それはただ暑さが嫌いだったから。或いは寒さが好きだったから。出会いと別れの季節ではなかったから。子供だったから。わからない。ただきっと何らかの意味を季節に見出していたから。
20代に片足を踏み入れ1年と少し。「二十歳を過ぎたら一年なんてあっという間だよ。」なんて言葉をよく聞かされた10代だったが、今思えばそれは足りない言葉だった。僕に言わせれば、あっという間に過ぎていくのは時間だけではない。好きな景色、好きな色、好きな人、趣味、思考、見栄の張り方。そんな内面的で形の不安定なものも、その不安定さを増して目まぐるしい速さで移り変わる、変わっている。それが20代なんじゃないか。
今もその移り変わるさなかにこの文章を書いている。大きくて、そして早い流れの中に伸ばした手の中に残るわずかな今の欠片を留めておくために、なんて言ったら変だろうか。あの子は笑うだろうか。
いつからだろう、夏を好きになったのは。
あっという間に過ぎた生活のどこかで、あっという間に変わってしまった僕の心には、もうきっかけも理由も何もかもが残されていない。ずっとずっと遠くの、後ろなのか前なのかもわからないところに置き去りになっている。
夏が終わる。
終夏 あ @untilyouth
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
終夏/あ
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます