6・あうたう

ひどく痺れた片腕のやうはつなつの風の感触のみ濃きこころ


涙ほど熱き風もて草はらの草流れたるくきやかに視ゆ


夕狩あり朝狩なき辞書を使ひて兄は卒業ののち勤めたり


目つむれば緑いろする草地にてわが幼さは眠るふりして


そばにゐたいだけだ桜桃の実のつる結べば人さし指はまれり


言はうとするたびに口腔にめくれる傷があつて、きらきらしき愛語


くりかへし読みたるのちにくらぶれば昔は岡井を読めずにをりき


need to pick a side〈どちらかをとらねばならず〉雨を見るやうな態度は好まれざりき


雨が降るといはれて窓を閉ざすやうにはゆかず暗きもの摑む手指


さびしさの底みえてこずのろのろと掲げる傘にみぞれ重たし


いううつで仕方なき私の前に扇風機ただ風もたらしぬ


見るものはすべて見をへつからつぽの舞台の天に月ありしまま


まなぶたにいくつ見過ごす夜があり見開く月のさびしかりける


あなたにはにはたづみの光が似合ふ それだけ書いて新仮名へかえ


くちなはを泳がせてゐる街川に真夏のひかり連なりゆけり


眠りたくなくて中継観てをれば真夜中にド・スタールの眼を得つ


水玉の草間彌生の大きなるかぼちや流れて止まざり雨は


つて言ふけど、僕だつて、言ひたいことは夜盗のやうに立ち尽しをり


片耳をはづして聴けり「愛のCoda」イヤホンの線長きこの夜


均一の棚に整列させられて旧大系の背にりう


一缶で酔ひたる君に訊ぬれば近代五種をひとつもしらず


えん濃きどんぶりの底見ゆるまで傾けてのむスープまぶしゑ


餃子ビール冷奴うまし生きてあること少しづつたのしき日暮れ


昼飯はわかめラーメンでよかりき何なすほどの吾でなければ


あなたとは違ふ経路に越えゆけば夜の丘に青草  き匂ひ


三つ目なき僕に和登わとサンのやうなる人のゐしこと今なほ不思議


裏庭の木に時の間の鬱ふかく過ぎつつあれば足らふ心は


心かと思ひて見れば何といふ事もなかりき冬の梢は


裏切り、とまで思はねど声昏くコートの裾をに集めゐつ


青春せいしゆんのほとんどが清酒せいしゆであるやうな宵に小瓶の空きにけるかも

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十二月から十月まで 不凍港 @minato_futou

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