5・かたぬき
月かげを
非常時の映像に非常階段は映されをりき
みづからを
うつむきの加減に吉本隆明は不意に宇野重吉と見えたり
加害者の心をいはぬ
水に手をひたして傷がいたむやうに神話崩えたる後を育ちき
廃田に神を云々する看板立ち古りて曇天を背負へり
そのことは皆まで言はずとはゆかず入江には碇投げ入れるもの
何のため疎まれてプラットホームの照明はつか逸れて立つべき
カーディガンの人にとり僕はやさしさかとほさかカーディガンの人に問はず
改札を抜け一列に出口へと向かふ群衆あほらしかるも
敗北はひなたぼこりの中にゐて
あかねさす輪郭を持ち森のマチエール濃く指に戻ることあり
裁かるるジャンヌのごとき傾ぎもてはつかの眠りを君憩ふらし
犀星の句
うた告ぐる人もあらなく夏あはれ
ラース・フォン・トリアーなんて知らないが窓の光にあくび放てり
ことば降る逃れがたさの雪野には視野はるけくて涙誘はる
一輪が散りばらばら落ちる脆さにも春を思ふと言はば言ふべく
雨こもる下界にしばしもだえつつ風は一つの答も知らず
われにある
天国への距離測るより慎重に垂らさるるべし鉛ひとかけ
どてつ腹ぶち抜かれたるさみしさへ余罪の色に雪はふりつむ
月刊誌閉ぢれば糊の欠けしノド見つけてしまふ寂しからずや
舌も右利きだらうか左にばかり傷つくりしわが前青年期
関東助詞といふものあらば関西助詞あるべしあらへんやろか知らんけど
花のきみ恋の殺めも知らぬかな血を流す友人に隣りて
わが見ざるものを見てゐし
言い余す心の形に型抜きは割れて舌の
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