4・みづきり
積読
松浦寿輝マッカラーズ夏目漱石、松目ならざるをやや惜しむ心
ぶら下がり健康法にすがりつきあはれ野兎は死にたりしかも
徒囚らに掘らせし穴の方形の正確はどこまで期されしか
要らぬ事かんがへてゐて行かせしまひし羽、檸檬、水、声など多し
喘息の兄をもつこと受動喫煙中にはつゆ思ひ出さざり
始まると知らされてなかつた工事のやうに硝子に夏はひそめり
熱したてのサトウのごはんは水気あるゆゑもろもろと碗をこぼれつ
公園の木々はかたへを常夜灯に照らされてゐて今し色しろし
真夜の
立ちのぼる辛子マヨネーズ味の湯気目もとに来ればさめざめ悲し
愛されてゐるのであれば温もらぬ毛布の襞も
何ものも視ず草に眼を遊ばせて野にしづむ身は眠りがたしも
片隅に重ね合はされ
マーカス・デュ・ソートイおほよそ三軒毎にブックオフにて数学説けり
自死娼婦犯罪の書目が挿されて書庫の蛍光灯しろかりき
顔にうくあぶらを寒き水道に流せば徹夜などすべからず
頭注は波音を
誓子の句
冬ならば「学問のさびしさに堪へ炭をつぐ」ともいふべきものを
アメリカ産レモン買ひ雨催ひせるはつなつの夜ははかなさを得つ
消えぬままに済むことなど思ひもせずに消え得たものを雪ならぬわれ
厭世のゆるむ日なたにチガヤ
生き惑ふ一夜の雨はひしひしと冷たきものを身に伝へけり
冷えびえと
皇帝もよけれど
騒がしき闇は時をり時じくのかくの木の実の裏過ぎゆけり
うち流したき事ほとほとおほかりしゆゑにシャワーで済ます夏の夜
水切りの石が沈んで水面が平らかになるその速さ
毛糸玉ころがしに厭き雌猫は卓に眠るらむ 球は崩えたり
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