モブなあたし

野栗

モブなあたし

 立場変われば あそこでは

 モブと呼ばれる 私達

 場所が変われば ヒロインさ~


 地元のFM放送から流れるご当地アイドルの歌声。お世辞にも上手いとは言えないその歌声をBGMに、車を走らせる。

 今日の現場は小学校。しかも、あたしの母校ときたもんだ。


 さすがに、もうあたしの顔を知ってる先生はいないよね。

 車は次第に見慣れた風景の中に入っていく。


 ――学芸会のクラス劇。全員にセリフのあるやつで、あたしは天使4だった。名前も忘れた男子とペアで、神様にごちそうを勧める役。


「神様、どうぞ召し上がって下さい」


「どうぞ、どうぞ」


 神様の前にひざまずき、この二つのセリフをあたしは先生の指示通り、繰り返し繰り返し練習した。


 そんなある日、先生はあたしとペアの男子にこう言った。


「この場面、君たちは『どうぞ、どうぞ』だけにします」


 歌を聞きながら、そんなつまらないことを思い出した。万事こんな感じで、あたしはずっと、どこに行っても通行人A、その他大勢、ただのモブキャラ。


 今日の現場は小学校のトイレだ。トイレの故障は地味に辛い。あたしが直せば、一瞬でもヒロインになれるかしら。あはは、自分でもバカみたい。

 ――まあ、トイレの神様にでも聞いてみるか。


 

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モブなあたし 野栗 @yysh8226

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