第38話 試験結果

「契約満了となる複数の欧州サッカークラブとのスポンサー契約は更新でよろしいでしょうか?」


「それでお願いします。それと玲子さん、AIの開発チームに臨時ボーナスをお願いします」


「畏まりました。では試験の結果は喜ばしいのですね?」


「それなんですけれど、良過ぎるんですよ!」


 本来ならば喜ばしい事では有るが天翔に笑顔は無い。


「全教科でほぼ満点っておかしいでしょう!」


 そう、判ってしまった問題を故意に間違える訳にもいかずに解答用紙を埋めた結果、全教科で満点かそれに近い成績となってしまった。


「しかしカンニングをした訳ではありませんので」


「そりゃそうですけど、ある意味カンニングよりもえげつない」


 イジメ防止の大義名分を掲げてグループ企業が設置し管理している防犯カメラが、実は天翔の試験対策の為だった。

 その結果、学年トップの成績を取った天翔は後ろめたさに襲われている。


「勝てば官軍です。謀多きは勝ち、少なきは負けと言うではありませんか」


『玲子さんって秘書と言うよりも軍師だな』


 天翔は改めて、玲子は敵に回さない様に気を付けようと誓った。



◯▲△



 そして試験終了後に再開された演劇部の部活動が終了し、部員達が下校した後に部室には美月と天翔のみが残っている。


「大丈夫だったの?」


「うん。厳重注意だったけどね。何とか」


 美月が誤って3年生の問題の一部を2年生の問題に混ぜてしまった件は美月に厳重注意処分となり、該当する問題は無効とされ点数の配分を改める事で決着した。


「でもね、誰も解けない筈なのに天翔くんだけ正解だったの」


 美月が表情を険しくして言いにくそうに切り出した。


「他の科目も゙ほぼ満点だし、天翔くんってそんなに勉強が出来る人だったの?」


「偶々ヤマが当たったんだよ」


 そのヤマはAIによる物ではあるが嘘はついてはいない。

 全教科満点など快挙以外の何物でもない。だが美月は教師としてこの快挙を手放しでは喜べない。


「全部?」


「ほぼ全部」


「3年生の問題まで合っていたけど」


 流石にそれはヤマを張りようが無い。しかし英語の問題をどうしても解きたくて実力を出した結果なんて言えない。


「あっ、あれは大学受験に備えて英検の勉強をしていたら似た問題が有ったんだよ」


「あぁ、英検ね。それなら納得だわ!」


 疑問の晴れた美月の表情が急にパッと明るくなった。


「天翔くん、ごめんなさい。実は職員室では天翔くんが何か不正をしたんじゃないかって話になっているの」


「それで怪訝な顔だったのか」


 美月は当然天翔を信じてはいても、この天翔の得点を快く思わない輩から因縁を付けられるのではないかと心配になっていた。

 だが冷静に考えてみればカンニングするには範囲が広過ぎるし、範囲外の問題まで解けるのだからカンニングの疑いは晴れると美月は確信した。


「ごめんなさい。天翔くんはそんな不正なんてする筈が無いのに」


「俺は大丈夫だよ。美月がこう改めて俺を信じてくれるなら」


 オドオドとする美月に優しさを投げ掛ける天翔。次第に言葉は必要無くなっていった。

 見つめ合う2人の顔が無言のまま接近したその時、部室のドアが開けられた。


「あっ、蒼井君。やっぱり居た」


 部長の宇都美悠衣と副部長の大田原智美が入って来た。


「御神本先生も居たんですね。何かしていたのですか?」


 大田原が首を傾げながら尋ねて来た。


「あっ、蒼井君が範囲外の所まで正解していた事について聞いていたのよ」


 美月の苦し紛れの答えに天翔もウンウンと小刻みに頷く。


「そう、それ!」


 我が意を得たりとばかりにテンション高く宇都美が天翔を指差す。


「私達、英語が芳しくなかったから蒼井君に教えてもらおうと思って」


 大田原は宇都美とは対照的に大人しく説明した。


「蒼井君、お願い。教えて」


 宇都美は天翔の右腕に抱き付くと、自らの柔らかい膨らみを押し付け始める。


「ちょっ、ちょっと待って下さい、宇都美先輩!」


「なっ、なっ、何をしているの、宇都美さん!」


 突然の出来事に美月は顔を赤くして声を裏返して叫ぶ事しか出来ない。

 天翔も効果的な対応を出来ないでいた。だがここで天翔は宇都美のブレーキなってくれそうな人物の存在に気が付いた。


「大田原先輩、お願いします!」


 天翔としては宇都美を止めてくれと思って声を掛けたのだが、大田原は天翔の期待通りには動いてくれない。


「ちょっと悠衣、利き腕に抱き付く人が居ますか」


「利き腕に?」


 求めていた台詞とは差異が有るがそんな事はお構い無し。呆れた様に言った大田原智美は、「こうするのよ」とでも言わんばかりに天翔の左腕に抱き付く。そして宇都美同様に女性特有の柔らかい膨らみを押し付ける。そしてそれは演劇部員の中で最も大きい。


「2人共離れなさい!」


 先程までの気弱な美月は何処へやら。叫びながら宇都美を天翔の腕から引き剥がしに掛かる。本来であれば自分が抱き付くべき場所を取り戻そうとする美月であった。




お読み頂きましてありがとうございます。

色々と立て込んでおりまして、暫くの間お休みさせて頂きます。

また落ち着きましたら続けますので、その時はよろしくお願いします。

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