第37話 英語のテスト
そして中間テストも最終科目のコミュニケーション英語のみとなった。
「どう?」
「全然」
1年生時からの天翔の友人である服部と石川の会話だ。この2人からテストに関しては景気の良い話が出た事が無い。
「天翔は?」
「まあまあかな」
ここまでの全科目で満点、又はそれに限り無く近い点数を取っている自信は有る。しかしそれをこの場で口にする事は出来なかった。
「くそっ、天翔がそこそこ出来たみたいだ」
服部が悔しがる素振りを見せるがもちろん本気ではない。一方の石川は2人には構わず、食い入る様に教科書
を睨み付ける。
「蒼井君、演劇部の勉強会には来なかったけど大丈夫だった?」
同じ演劇部の佐野が心配して来た。
「佐野さんこそ俺の心配をしている余裕が有るの?」
「うん。勉強会で御神本先生が教えてくれたから英語は自信有るんだ」
「そうなんだ」
『うっ、羨ましい!』
思わず口に出そうな本音を何とか抑えて平静を装って素っ気ない返事をする天翔であった。
その勉強会が行われていた頃の天翔は電気自動車世界最大手との商談の準備中で、勉強会に出る余裕は無かった。
尤も通訳無しで米国企業の代表との商談をする天翔に勉強会は必要無い。
だが単純に美月と居られる事をも羨ましく思っていた。
「もうすぐ始まるぞ。みんな座れ!」
試験官の教師が教室に入って来るなり着席を促す。それを受けてクラスの全員が席に着くと問題用紙が配られ、皆それぞれに臨戦態勢を整える。
「チャイムが鳴ったら問題用紙をひっくり返して始めなさい。あと5秒! 4、3、2、1」
キーンコーンカーンコーン!
試験官の教師のカウントダウン通りに校内にチャイムが鳴り響く。
「始め!」
全員が一斉に問題用紙をめくって取り掛かる。
美月が担当する英語コミュニケーションだけは天翔の意向によりAIでの予想問題は作成されていない。
天翔はそれが美月への誠意だと思ったからだ。
『これは』
しかし幼少の頃より世界の主要言語に馴染んでいた天翔に取っては高校2年生の問題は簡単過ぎたのだ。
『いかん。美月が授業でやっていた事だけに集中しよう。まずはこの問題だが』
天翔は考えた。脳内にインプットされた先月からの美月の授業内容にこの上無く集中する。すると天翔の脳内だけに美月の可憐な声が響いた。
「これは間違いやすいので注意して下さい」
『そうだ、これは引っ掛け問題だ。確か、4月15日の3時間目の授業で習った!』
次の問題に着手すると再び美月の声が脳内に聞こえる。
「でも実は例外が有りまして…」
『これも引っ掛けか。こっちは確か、4月19日の6時間目だった!』
この調子での次々と解答用紙が埋まっていく。
◯▲△
キーンコーンカーンコーン
試験終了を告げるチャイムが鳴り響く。
一様に皆が安堵の声を上げる中で天翔は打ち拉がれている。
『ダメだ。美月の授業の記憶に無い問題が有った。記憶だけだと解けない問題はつい実力を出してしまった』
本来ならば高校2年生の試験問題は難無く解ける実力は有る。それが逆に足枷となっている天翔にとっては今回の試験はもどかしい結果となった。
悔しさを滲ませる天翔は背後のクラスメイトの会話などは耳に入って来なかった。
「ねぇ、最後の方の問題って全然解けなかったよ」
「私も」
「俺も」
「あれって習ってないんじゃない?」
◯▲△
その頃職員室では解答用紙を取り纏めた美月が、殆どの生徒が最後の問題に正解を書けていない事に気が付いた。
そして問題用紙を確認すると血の気が引いていく。
「あ゙あ゙あ゙~っ!」
間違って2年生の問題に3年生の問題を混ぜてしまった事に気が付いた美月は、かつて出した事の無い悲鳴を上げていた。
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