蛮族、魔将とお話し合いをする
「な、なんですの!?」
「ば、ばばばばばば……蛮族ゥ!?」
(蛮族だ……間違いない! とすれば腰に提げているのはベルギア刀! そうだベルギア氏族! 思い出したぞ、剣1本でなんでも斬る色々おかしい奴等だ!)
突然の事態に驚くグレイスの前で、ノルムがレンズのなくなった眼鏡を地面に放り投げる。
「なんで蛮族が此処にいるんだ! 勇者ゲームに呼んだ覚えはないぞ!?」
「まあ、参加はしてませんけれど。現場にはいましたし……」
「現場ァ!? あ、ディバスか! まさかディバスと何かあって殺しに来たのか⁉」
「いえ、そこまでは……とりあえずは」
場合によってはジャスリードが一瞬で首を刎ねにいかないとも限らないのでグレイスはそうボカすが、当然ノルムは違う受け取り方をする。
(ボコボコにするのは確定ってことか……拙いぞ、蛮族が昔と比べて衰えてるならやりようはあるが……)
そう考えていたノルムはハッとしたようにグレイスの言葉を思い返す。参加はしていない。確かにそう聞いた。
「……参加はしていないと言ったね」
「ええ」
「そして君たちは、ディバスに用事があるらしいが……何の用だい?」
言いながらノルムは眼鏡をかけなおす。大丈夫だ、戦士が群れで来たならともかく戦士とシャーマンの2人だ。そうであるならまだ大丈夫だ。そう自分をノルムは鼓舞していく。
「ベルギア氏族の村の近くに展開していた、やけに装備の良いオークとゴブリンの集団について少しお話が」
パキン、とノルムの眼鏡にヒビが入る。なんかもう完全に駄目な感じだ。いや、まだいけるだろうか?
「そうか……それは君たちを襲ったのか?」
「いえ、ベルギア氏族の決まりでゴブリンは皆殺しですのよ」
「掟かあ……そっかあ……」
蛮族はその辺りハッキリしているのでそれはどうしようもないとノルムは思う。まあ、ゴブリンはすぐ増えるし別に痛手ではない。蛮族が滅ぼす速度とどちらが速いかは疑問ではあるけども。
とにかく、そういうことであれば大丈夫かもしれない。割れた眼鏡を外して手に持つと、ノルムは極めて優しげな……友好的な笑顔を作る。
「まあ、いい。ボクたちの勇者ゲームには蛮族と敵対するなどという予定はない……きっと別の何かをするためにそこに布陣していたか、たまたま野生の連中がそこにいたという可能性もある」
「ええ、そうであればいいのですが……諍いもございましたので、一応ご本人に確認をと」
「そ、そうだね。ちなみに万が一……万が一だがディバスの仕業だった場合、どうするんだい?」
「斬る」
「それは困るなあ……」
ジャスリードのあまりにも明快な答えにノルムは苦笑するが……段々イライラもしてくる。
(考えてみりゃ、なんでボクがこいつら相手にしなきゃいけないんだ? こんな一手間違えたら死ぬゲーム、ボクがやる必要なくない?)
とはいえ、ディバスが余計なことを言ったら困る。いや、言わないだろうか。魔将の中では一番若手だが、アレは頭脳派だ。余計なことは言わないはず……いや、どうだろう。たぶん大丈夫、だろうか?
(よし、呼んでこよう。で、余計なこと言いそうなら殺す勢いで止めよう)
そう決めると、ノルムは通信魔法を起動する。虚空に姿が浮かび上がったのは……魔将アンガンだ。
「……どうしたノルム。通信など使いおって」
「ディバスに客だ。用件は蛮族のベルギア氏族の村近くにいたオークとゴブリンの混合の群れの件。すぐにこっちに寄越してくれ」
「……! 分かった」
「ああ、頼むよ」
何かを理解したようにハッとした表情になったアンガンに全てを託すと、ノルムは通信を切る。アンガンは聖魔戦争のときにベルギア氏族に痛い目にあわされている……誰より切迫さが違うはずだ、実に運が良かった。
「すぐに此方に向かわせるそうだ」
「ええ、助かりますわ」
「……ところで、君たちに聞きたい。勇者ゲームには関わっていないという話だが」
「そうですわね」
「人類の味方として参戦する気はない、ということかな?」
「私は別に。氏族としては交易相手が変わるだけという認識のようですけれど」
「そうかい」
変わらないな、とノルムは思う。昔から蛮族はそうだった。一応人類種族の仲間のはずなのだが、自分たちだけで世界が完結しているから仲間意識というものがゼロなのだ。
(個人の思想がどうこうというよりは種族的な性質……生まれながらにして中立を義務付けられているかのような存在だ。敵に回すのは、どう考えても得策ではない)
聖魔戦争で最終的に蛮族が抜けたのは、その辺りが理解されたのが大きい。なんとか交渉したのだ。だからこそ、蛮族という相手との交渉というものに関してはノルムも理解できている。そして蛮族が今回の勇者ゲームに興味を持っていないというのも理解できた。ならば……話は簡単だ。
そう考えたとき、黒い空間のようなものが開きその中からディバスが現れる。すでにアンガンから事情についてはしっかり聞いているはずだ……なんか殴られた跡があるが、まあいい。
「ふふ……よく来たな。とりあえず私は何もしていない。いないが……」
「ん?」
「魔将が皆揃って蛮族を恐れているのが理解できん! ここは一手お手合わせ願おう!」
「あ、このっ」
ディバスが襲い掛かった、その瞬間。グレイスの鞘に納められたままのベルギア刀がディバスを殴りつけて。
「ジャスリード!」
「ああ」
グレイスの上をジャスリードが飛び、ディバスの首を抱えて地面へと引き倒しマウント態勢にはいる。
「降伏するか、否か。否であれば是と言うまで殴る」
「この程度で何をぐばああああああああああ!?」
凄まじい打撃音が響いて。ディバスが気絶したところでノルムが止めに入り、魔将ディバスとの戦いは……ジャスリードの圧倒的勝利で終了したのであった。
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