蛮族、魔都に辿り着く
魔都セイクーンはその日、大混乱であった。まあ、当然だろう……勇者ゲームのことは知っていても最果ての地の奥にあるこの地にまさか本当に人類が訪れるとは思わなかったのだ。それも堂々と真正面からだ、ということは途中に配置されたというモンスターたちはどうなったのか?
「ゆ、勇者……なのか?」
「勇者が此処まで……いや、こんな短時間で?」
魔都セイクーンには壁や門はない。「何かから守る」という発想自体が存在しないからだ。魔族を攻めるモンスターなど存在するはずもなく、人類が此処まで来られるはずもない。そんな傲慢じみた、しかし当然の発想が根底にあったからだ。
ゴーレムの壁自体が身の程知らずを叩き潰すものであり、それで充分すぎたのだ。
しかし此処に人間……たぶん人間がいるということはそれを突破できるルート……つまり勇者ゲーム用に用意されたルートを踏破してきたということであり、それだけの強者ということでもあるのだ!
「待て! そこで止まれ!」
魔王城に向けて迷いなく歩いている2人の前に、半人半鳥のモンスター、バードマンたちが舞い降りる。空を飛べるからこそ配置された警備兵だが、こういったときのための見極め役をも任されていた。
「貴様等は勇者か!?」
「勇者ならば証のメダリオンを見せよ!」
「そんなものはない。そもそも勇者ではない」
「「は?」」
ジャスリードの返答にバードマンたちは顔を見合わせる。おかしい、そんなはずはない。ゴーレム城を突破できるはずはないし、そうなれば6つの宝玉を集め地下迷宮の扉を開き、勇者の証として用意したメダリオン……すなわち招待状によってゴーレム城の門を開いているはずなのだ。なのに、そんなものはないとはどういう意味なのか?
「……えーと、あれだ。宝玉はどうした? 各属性に対応した宝玉だ。手に入れただろう?」
「これですの? 属性なんてありませんわよ」
グレイスがジェネラルスケルトンから手に入れた導きの宝玉を取り出すと、バードマンは「違う!」と叫ぶ。
「それはただの導きの宝玉だろう! え、待て。だとすると……封印の鍵はどうした! 12個の鍵があっただろう! それはどうした!?」
「知りませんわ。封印の鍵って……何故そんなものが必要なんですの?」
「持ってないのか⁉ な、なら石板はどうした! 24に分かたれた石板は!」
「知りませんわ。あとさっきから数が倍々に増えてますわよ」
「貴様等どうやって此処まで来たんだ!?」
用意したクエストを何1つやっていない。たぶん最初のほうに配置された導きの宝玉を1個持っているだけ。こんなことが許されていいのだろうか?
「どうって……最果ての地に普通に入ってきて此処を目指してきただけでしてよ」
「ゴーレム城は!?」
「(ジャスリードが)やっつけましたわ」
「うわああああああああああああああああ!」
「落ち着け、とんでもない化け物が来ただけじゃないか! あ、最悪だ!」
考え得る限り1番最悪のパターンだ。勇者でもない化け物がなんかやってきた。バードマンではとてもじゃないが太刀打ちできない。
「勘違いされてるようですけど、私たちは話し合いに来ましたのよ」
「話し合いに来る奴がゴーレムを壊すか馬鹿!」
「それについてはぐうの音も出ませんわね! でも話し合いに来たんですのよ!」
「嘘だああああ!」
まあ、実力行使しながらやってきたからそう言われるのは仕方がない部分もあるのだが、実際話し合いに来たのだ。どうやったらそれを信じてもらえるのか?
シャーマン見習いとして、グレイスはそれを冷静に考える。話し合い。使者。それを前提に考える。
(……そもそも、こういうのは下の者と話をしていてもらちが明かないものですわ。そう、つまり……)
上の者を、つまり決定権を握っている者を出してもらえばいい。その考えに到ったグレイスは、可能な限り余裕の表情でバードマンたちへと呼びかける。
「なら、貴方たちの上司を出してくださいます? その方と直接お話いたしますわ」
「へえ、中々の自信だ……今更ザコなど相手にするまでもないということかな?」
近くの家の扉を開け進み出てきたのは……サラリとした黒髪を綺麗に整え眼鏡をかけた、知的な印象のある男だった。
切れ長の目には確かな知性の輝きが宿り、纏う服もセンスがある……恐らくは参謀的立場にいるのだろう、とグレイスは想像する。参謀でないとしても何らかの文官的立場にあるのは確実。
如何にも冷静沈着な頭脳派。それがグレイスの初見での男に対する評価。そしてこの男は……。
「魔族、ということでよろしくて?」
「ああ。ボクは魔将ノルム。何やら騒いでいたみたいだけど……君たちは勇者一行かな?」
「違いますわ。私はベルギア氏族のシャーマン見習い、グレイス。こちらは戦士のジャスリードですわ」
「なるほどね、シャーマンと戦士……シャーマン、戦士……ん?」
「今日は1つ確認したいことが」
「戦士と、シャーマン……氏族……?」
「え? ど、どうされましたの?」
ぷるぷると小刻みに震えていたノルムの眼鏡が……パリーンと盛大に割れて吹っ飛んだのは、次の瞬間であった。
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