没落少女、決意する
そんな平和的なジャスリードたちとの戦いでホースマン側の死者はゼロであり、ジャスリードとグレイスの前にホースマンたちがずらりと並んで座っていた。もはやホースマンたちは先程のテンションはどこへやらといった感じで沈み込んでいる。
「それで、魔将ディバスの居場所はご存じですの?」
「言うわけがないだろう! 馬鹿なのか!?」
「ば、馬鹿ですって!?」
「馬鹿だろう! なんで敵に居場所を教えると思うんだ!」
「だって貴方たち、負けたでしょう!?」
蛮族思考が大分混ざっているグレイスの物言いにホースマンはヒュッと息を呑む。
「え、怖ぁ……なんだそれ。負けようと何しようと言えねえもんは言えねえだろうがよ」
「負けるのと裏切るのとは別だよな……」
「さっきも言ったが」
そこでジャスリードがズイと前に進み出れば、ホースマンたちは恐怖でピタリと黙り込む。まあ、当然だろう。先程のジャスリードの理不尽な戦闘力は身体でしっかり覚えている。
「俺たちは今後の話の内容次第ではあるが、今のところ敵対する気はない。つまり正式な使者と言える」
「いやまあ……そうだとしても……」
「お前たちが教えてくれれば、俺たちも無駄にあちこちを回らなくて済むんだが」
言われて、ホースマンたちは顔を見合わせる。まあ、敵ではなく使者ならまあいいか……という感じではある。というか、こいつ怖いし。出来れば早く何処かに行ってほしいし。
「……どうする?」
「いやまあ、いいんじゃないか?」
「怖いしな……」
そんなことを囁き合うと、ホースマンの1人が「分かった」と頷く。
「お前たちが使者であると言うのなら、まあ……信じよう」
「ああ」
「もし聞かれたらそう言っていたとちゃんと言えよ」
「ああ」
……そんなわけでホースマンから魔都セイクーンの場所を聞いたジャスリードたちはその方向へ向けて歩いていたが……グレイスの大きな溜息が響く。
「失敗ですわ……交渉を担当すべき私があんな……」
こんな醜態をさらしてはクエストのクリアなど程遠い。グレイスはそう考えてしまうのだが……ジャスリードは、そうではない。
「俺はそうは思わん」
「え? ですが……」
「グレイスが奴等を怖がらせたおかげで、俺が情報を上手く引き出せた。とても楽だった……感謝する」
「ジャスリード……」
ジャスリードの言葉にグレイスは暖かいものを少し感じかけて。そこで「ん?」と首を傾げる。なんだかこう、おかしいと感じたのだ。
「いえ、待ってくださる? 私、そんなに怖かったんですの?」
「ああ、中々だったぞ。お前たち敗者から全ての権利を剥奪すると言わんばかりの、あの態度……流石だった。奴等に見えていたのは慈悲無き思考を持つ者と、その剣……まあ、そんな感じであっただろうな」
「え? それってもしかして私1人が悪者になってますわね? ジャスリードの無慈悲な拳も私のせいになってますわね?」
「慈悲はあっただろう。殺してないんだから」
「……そうですわね……」
まあ、確かに構図としてはそう見えるだろう。滅茶苦茶強いジャスリードと、それよりはずっと弱いけど交渉の口火を切ったグレイス。ホースマンの視点から今回の交渉を見てみれば、そういう風にしか思えない。というか、それよりも。
(ジャスリード、もしかしなくても頭が良いですわよね……? 交渉役なんて必要ないくらいなのに私を連れてきている……つまり採点担当でもあるということですわ)
もしそうだとすれば、不合格だったならば……グレイスはどうなってしまうのか? 今更王都になんか戻れない。いや、捨てたりはしないだろう。しかし不合格のシャーマン見習いなど、何の役に立つというのか?
いや、そもそも……ジャスリードにそんな目で見られて、グレイスは耐えられるのだろうか?
そう考えると、グレイスはゾワッと悪寒を感じてしまう。嫌だ、と。そう素直に思う。それだけは……それだけは、嫌だ。
「……ジャスリード」
「なんだ?」
立ち止まったグレイスに、ジャスリードは振り向く。グレイスが何か悩み始めたのは、当然のようにジャスリードも気付いていた。しかしながら、一々真綿で包むように過保護なことはしない。それはグレイスのためになることではないからだ。
「私、今回の試練を……絶対にやり遂げますわ」
そう言い放ったグレイスの目には、強い意思が宿っている。絶対に成功させる、試練を突破するという強い意思。それが透けて見えるようだった。だから、ジャスリードは優しく微笑む。
「ああ、そうしろ。俺もそれを期待している」
不安は相手に悟られる。無知は相手につけ込まれる。弱さは相手にナメられる。だから、交渉役を担うこともあるシャーマンは誰よりも飄々としていなければならない。勿論、そこまでを今のグレイスに期待するのは無理だろうと、そうジャスリードは考えている。
それでも、きっと……このクエストはグレイスを進化させると。ジャスリードはそう思うのだ。グレイスには秘密だが、これはそういう旅でもあるのだから。
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