蛮族、平和的にいこうとする

 まあ、そんなわけでヒントなどそんな場所にあるはずもない。ないが……ないならないで、自ら動いて情報を得るのが蛮族流というものである。

 だから、此処が魔族の本拠地であると知っていてもジャスリードたちは何の迷いもなく歩き進んでいく。丁度向かう先に魔族の村らしきものがあれば当然ジャスリードたちは向かうのだ。そこには何の問題もない。

 しかしモンスターからしてみれば大問題である。平和なモンスターの村に突然人間……たぶん人間が現れたのだ。まあ、今勇者ゲーム中だというのはさておいて。しかも明らかにモンスターの村なのに何も恐れる様子がない。それが物凄く理解できない。


「お、おい。なんだアイツ等……どっから来たんだ?」

「ゴーレムを倒せる人間がいるとは思えねえ。穴でも掘ってきたんじゃないのか?」


 分からない。分からないが……まあ、何かズルい手段でやってきたのだろうと当然のようにモンスターたちは考える。

 だから、この村のモンスターたちは基本的な対応として危機感のない人間どもをぶっ殺してみることにした。


「ハハハハハハ! 馬鹿な人間どもだ! ブチ殺してやるぜぇええ!」

「待て待て、殺すのは俺だっつうの!」


 そうしてモンスターたちは我先にジャスリードたちに襲い掛かっていって。一番速かった半人半場馬のモンスター「ホースマン」の顔面に……ジャスリードの拳が突き刺さった。


「ぐえっ?」


 メゴッと。顔面がへこむ音を響かせて、ホースマンは回転しながら吹っ飛んでいく。何回転もしながら吹っ飛んでいくその姿は、いっそ芸術的で。


「「「……はあ?」」」


 他のホースマンたちは、思わず槍を構えたまま静止して。もう1体のホースマンがジャスリードの拳でまた吹っ飛んでいく。


「ぶげええええっ!?」

「な、なんだアイツ!」

「強いぞ!?」

「女の方を狙え、弱そうだ!」


 仲間がやられている隙にホースマンの1体がジャスリードを避けてグレイスへと突進していく。それはホースマンからしてみれば当然の選択だっただろう。しかし……グレイスはベルギア刀を引き抜くと、ホースマンの突き出した槍をいとも簡単に薙ぎ払う。


「へ?」

「でやああああああああああ!」


 ガン、と。跳んだグレイスのベルギア刀の刃のないほうでぶん殴られたホースマンが「ぐえっ」と悲鳴をあげて転倒する。


「女も強いぞ!?」

「だが男と比べると常識の範囲内だぞ!」

「よし、やっちまえ! 囲めばいける!」

「傷つきますわね……事実ですけれど」


 魔法でどうにかしてしまおうか。そんなことを考えたグレイスは「あっ」と声をあげる。


「弱い者から相手にする? 違うだろう」

「ヒイッ!」


 そこには他のホースマンを全員殴り飛ばしたジャスリードがいて。


「強い者から相手にしろ! この恥さらしめ!」

「ぎゃああああああ!」

「弱い者に挑むことが誉になるのか!」

「ぐえああああああ!」

「しかも囲む!? 恥に恥を重ねて、それで貴様等は戦士としての価値をどう示すつもりなんだ!?」

「ぼえええええええ!」


 一撃ごとにホースマンが吹っ飛んでいき、やがて立っているのはジャスリードとグレイスだけになってしまう。


「……くだらん戦いだった」

「というか、問答無用で襲ってきましたわね」

「モンスターとはそういうものだ。今まで会話が成立していたのが奇跡ではある」

「まあ、それもそうですわね」


 ジャスリードの言う通り、モンスターとは一部の知能の高いモンスターを除けば会話が成立しないのが普通であり、モンスターとは人類に激しい敵意を抱き見つければ襲い掛かってくるのが普通だ。

 しかしジャスリードとグレイスはこの旅で話の通じるモンスター……具体的にはジェネラルスケルトンと出会い「意外に話が通じるな」と感じてしまった。

 しまった、のだが。それ故にモンスターへと望むハードルが結構高くなっている。なりすぎてしまっているのだ。ついでにジェネラルスケルトンもジャスリードの中では「誇り高き戦士」に分類されてしまっている。


「お前らはあのジェネラルスケルトンに比べれば戦士に値しないゴミだ……あの者を多少なりとも見習うべきだと思うがな」

「うう……な、なんなんだ貴様等……」


 侮蔑の目で見降ろしてくるジャスリードにホースマンの1人がそう問えば、ジャスリードはフンと鼻を鳴らす。


「ディバスに会いに来た。そこまでの道を聞こうとしていたんだがな」

「ゆ、勇者!? まさか本当に来たのか⁉」

「勇者ではない。俺はベルギアの戦士ジャスリード。返答次第だが、戦いに来たわけではない」

「いきなり襲ってこなければ戦いにはなりませんでしたのよ」

「黙れ人間……! 最果ての地に乗り込んできて戦うつもりがないだと!?」

「ああ、ない。今回はお前らが襲ってきたからだな」

「ふ、ふざけやがって……!」


 この辺りは正直両者の常識の差である。ジャスリードからしてみれば話し合いにならなかったから戦っただけであり、ホースマンたちからしてみれば侵入者に襲い掛かっただけである。正直ここだけだとジャスリードたちのほうが平和的っぽいのは笑うしかない部分ではある。

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