蛮族、蛮族思考する

 ジャスリードは、その手応えに満足していた。

 ロックゴーレム。それはベルギアの戦士であれば1度は相手にする敵だ。

 ベルギア氏族の住む森では1年に1回、ロックゴーレムが自然発生する。それを倒すのはベルギアの戦士が自分が一流の戦士であると示す腕試しであり、当然ジャスリードも挑んだことがあった。


(あのときは倒すのに数撃かけてしまったが……今は一撃。決して悪くない)


 ベルギア刀はロックゴーレムを何度ぶん殴ろうとも欠けはしない頑丈さを誇る剣だ。しかしそれは敵を倒すのに何手もかけていいという意味ではない。ベルギア刀の頑丈さは武器を言い訳にさせないための硬さに過ぎない。最高の武器をもってしても一撃で仕留められないのは己が弱いからだ。そう戦士たちを戒めるための武器こそがベルギア刀。だからこそ、ジャスリードは自分を踏み潰そうとした別のロックゴーレムの攻撃を跳んで避ける。それだけではなく、その攻撃を起点にロックゴーレムの身体を壁登りの要領で駆け上る。


「ハハハハハ! いいぞ、どんどん来い! まさかこれだけの数のゴーレムと戦れるとは思わなかった!」


 ズドン、と凄まじい打撃音と共にゴーレムの頭を砕くと、別のゴーレムがそこにいるジャスリードを仲間の残骸ごと砕こうと拳を振るう。


「いい判断だ……だが、甘い!」


 ゴーレムの拳が空振り、その伸びきった腕にジャスリードが飛び乗っている。そのまま走っていく先は……そのゴーレムの頭部だ。だが、ゴーレムとてそうはさせない。腕を振ってジャスリードを振り落とそうとして。しかし、出来ない。すでにジャスリードは腕を足場にジャンプしている。


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 高く、高く跳んで。狙う場所はそのゴーレムの頭部。叩きつけたベルギア刀がゴーレムの頭部を叩き砕き、そのままジャスリードは別のゴーレムへと襲い掛かる。対巨人としてはまさに理想的な、そして圧倒的な戦い方にグレイスは「わあ……」と半分感心、そして半分呆れたような声をあげてしまう。


「ベルギアの戦士は身体能力が先で、オーラはついで……その意味が凄くよく分かりますわね」


 結局のところ、ベルギアの戦士はオーラが使えるから超人的な動きが出来るわけではない。熟練のオーラ使いといえどベルギアの戦士と同じことなど出来はしないお。オーラを使えば自分の本来の身体能力よりも凄くなる……つまり「強化」であって、オーラが凄ければそれは当然人間離れした動きことできるが、結局は身体能力がモノを言う。

 そしてベルギアの戦士の場合は元々超人なので、オーラを身体の調子の維持などに本能的に全振りしている。

 それはつまり「常時絶好調」ということでもあり、好不調による発揮できる実力の差などというものはない。常にマックスなのだ。その結果が目の前のゴーレム戦というわけであり、グレイスはその域まではいっていない。

 実際、ジャスリードがゴーレムを叩き割っているのはオーラではなく筋力だ。オーラを込めたらあんな砕け方ではなく、ケーキを切るようにスッパリと斬れているだろう。


「私、何処までいけるのかしら……」


 そんな呟きを漏らすグレイスのメンタルは結構蛮族寄りだが、そんなグレイスの目の前で最後のゴーレムが砕かれて。そのままジャスリードはグレイスの下へと歩いてくる。当然ながらベルギア刀には僅かな欠けもない。


「グレイス」

「おつかれさまですわ、ジャスリード」

「ああ。それとだな……」

「え?」

「自分が何処まで行けるか、という問いの答えは『何処までも』だ。人は鍛えれば鍛えるほど強くなる。才能というものは確かに存在するが、それは成長速度の話だ。こと肉体に関しては成長限界は存在しない……限界と考えているものは、ただの壁であるからだ」

「それを限界と呼ぶのでは……?」

「違う。壊せるものを限界とは呼ばない」


 それはどうだろうかとグレイスは思うが、実際グレイスも以前の自分とは比べものにならない力を得ているのであまり否定はできない。


「まあ、努力はしますわ」

「そうしろ。さて、ゴーレムは壊した。あとはこの先に進むだけだが……どの方向に進むべきか」

「真っすぐでいいと思いますわよ。これはゲームなんですもの、きっと何処かに魔族がヒントを配置してますわ」

「確かにな、その通りだ」


 ジャスリードは頷くと、ベルギア刀を鞘へと納める。そう、グレイスの言う通りにこれは魔族による「勇者ゲーム」なのだ。ならば勇者を導くための案内……あのジェネラルスケルトンを倒したときのようなものがあるはずだ。


「あのスケルトンから渡されたオーブからの光は別の方向を指してますけれど……まさか魔族の本拠地をスルーするわけないですから……やはりあのゴブリンの基地が次の関門だったのでしょうね」

「ああ。それは方向を指すだけのものだった……ということだな」


 勿論、そんなわけはない。オーブの光の指し示す先には次の関門が待っており、そこでボスを倒して……みたいなものがある予定だったのだ。

 最果ての地があったから城のようにデカいゴーレムを複数倒して先に進もうぜ、と考える蛮族思考が変なだけなのである。

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