蛮族、最果ての地に到着する
コボルトキングとオークジェネラルの、そんな涙ぐましい努力とは裏腹に。ジャスリードたちは彼等の基地を攻めることはなかった。
まあ、当然ではある。ジャスリードたちは別に人類を救うためにやっているわけではない。
ゴブリンはゴブリンだから潰したのだし、チルドは襲ってきたから迎え撃った。他のどうでもいいモンスターを相手にしている暇はないのだ。というかジャスリードの頭にも入っていない。
まあ、そんなわけで彼等をそのままにジャスリードたちはすでに最果ての地へと到着していた。不毛の地と呼ばれどの国からも放置されていたその場所はモンスターがはびこっていたのが「本当の放置された理由」であるのだが……さらにその裏にある本当の真実「魔族の本拠地であること」はすでに忘れ去られていた。いや、正確にはもう誰もが思い出したのだろうが……そんなものは今更である。
そんなこの場所で、ジャスリードとグレイスは長大な壁を見下ろしていた。
壁……いや、砦? それとも城? 窓もあるそれは、あるいは城であるのかんもしれない。
仮にあれを最果ての長城と呼ぶとして……ジャスリードたちは、1つの疑問に行きついていた。
「生物の気配がない。それなのに何かしらの圧を感じる……グレイス、お前はどう考える?」
「普通に考えるなら魔法生物ですわね」
「やはりそうなるか」
「ええ」
ジャスリードに答えながら、グレイスは長城をじっと見つめる。
普通に眺めていれば、それは細長い城であるように見える。石造りの壁のような城であるが、恐らくは侵入者阻止のためにそういう造りをしているのだろう。
しかしながら、その割には人影がない。せめてゴブリンでも配置すれば五月蠅く騒いで警報装置の代わりになるだろうに、そんな様子もない。
城の中にもいないことは、ジャスリードが感知している。勿論、地平線の果てまで続いていそうなほどに長大な城だ。たまたま此処に丁度いなかった、という可能性もあるだろうか?
(……いえ、それは有り得ませんわ)
そう、有り得ない。ゴブリンなんて一山いくらかというくらいに増える生き物なのだ。此処が魔族の本拠地……国であり、あれが国境の城であるというのなら。しかも今が「勇者ゲーム」の最中であるのなら。何もいないなんて言うことは有り得ない。そしてそれはジャスリードの感じる「圧」が証明していた。
「何かがある。問題はそれが何であるかですわ……」
そうして考えるグレイスを、ジャスリードは黙って見つめていた。邪魔をするつもりも、急かすつもりも……これ以上自分の考えを披露する気もない。大切なのは、グレイスがどんな結論を出すかだ。そんなジャスリードの期待に……グレイスは、ハッと思いつくことで応えた。
「そうか。ゴーレム……ゴーレムなんですわ。あの城……複数のゴーレムが並んで作られているんですわ」
「城の形のゴーレム、ということか」
「正確にはそういう風に変形できるゴーレムだと思いますわ」
ゴーレムは変形可能なものがあると聞きますもの、とグレイスは続ける。そう、ゴーレムは魔法生物とも言われるが正確には「魔法で造られ、ある程度の自己判断機能を持つ疑似生物」である。生物ではなく生物のようなふるまいをするもの、ということだがそれはさておいて。
「なるほど、考えましたわね……確かにあの長城がゴーレムの群れであるならば、下手な人員など必要ありませんわ。ゴーレム自体が防衛も監視も全部できるんですもの」
生物ではないゴーレムには油断も眠りもない。込められた魔力が切れるまでは動き続け、魔力が切れても普通の城になるだけ。なんとも無駄のない造りだ。
「ジャスリードの感じた圧は、恐らくはゴーレムがこちらを見ている気配ですわね。つまり、もう見つかっている……それでも襲ってこないのは、近づく瞬間に攻撃してくるつもりなんだと思いますわ」
「なるほど、素晴らしい見解だ。ではそれを前提に行動しよう」
「えっ……でも100%の確信ではないですわよ?」
「なら何%だ?」
「……低くて90%ですわ」
「充分だ。賭けとしてもぬるすぎて成立しないくらいだ」
そう言うと、ジャスリードは長城へと突進していく。それを「侵入者」の証拠とみなしたのだろうか、長城がゴゴッと音を立てて振動し始め、何体ものロックゴーレムに変形していく。
「やはりゴーレム……! それにしても、これだけの数をこれだけの精度で揃えたんですの!?」
余程の腕と集中力がなければ不可能なことだ。ゴーレムなど、形も大きさもバラバラが普通だというのに、凄まじいこだわりがなければこんなことは出来そうにもない。
「ジャスリード、気をつけてくださいまし! そのゴーレム、恐らくは普通のゴーレムより……!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ジャスリードがゴーレムの表面を走り登り、その頭部をベルギア刀の一撃で砕き倒れさせる。
ズガアン、と。凄まじい音を立てて地面に背中から倒れるゴーレムを見て……グレイスは「余計な心配でしたわね」と呟いていた。
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