モンスター、方法を模索する

 さて、ゴブリン隊の壊滅からチルド隊の壊滅までの流れで分かる通り、魔族による侵攻軍は細かく区域分けされ中距離通信によって互いの連携を密にしていた。そんな状況でゴブリン隊とチルド隊の連絡がつかなくなった。これは緊急事態を意味していて、当然のように2つの侵攻拠点に偵察が送られた。

 その結果得られたのはゴブリン隊壊滅、そしてチルド隊もゴブリン隊を壊滅させた何かを攻撃し壊滅している。誰がやったかは分からないが……恐らくは監視に引っかからない程度の少人数。となれば……正体も予測できる。


「新しい勇者が現れたようだな」

「ああ、そう考えるしかあるまい」


 この地域を担当する残り2つの部隊……すなわちコボルト隊とオーク隊。そのリーダーであるコボルトキングとオークジェネラルは、そういう考えで一致していた。

 彼等の部隊は強力だ……コボルトキング率いるコボルト隊はその手先の器用さから罠を仕掛けるのが得意であり、ある程度の知能もあることから戦術という概念もある。同数の人間の部隊と戦い倒したこともある、そのくらいの実力を持っている。

 そうしてオークジェネラル率いるオーク隊は、その巨体と力によって真正面から叩き潰すのを得意としている。しかも魔族からの支援を受け身に纏う武具は立派で、それを打ち破ろうと思えば相当な実力が必要だろう。そう、まさに「勇者」と呼ばれるに足るような一騎当千の者であれば倒せるであろうが……しかしまあ、ラナシュ王国の「勇者」はすでに死亡している。

 そう、ラナシュ王国の「勇者部隊」はルール通りに担当地域の部隊で丁寧に磨り潰したという。大人数を連れてくるという大馬鹿な連中であったらしいが……つまりは、それで学んだということなのかもしれない。


「しかし、チルド隊が敗れるとはな……その分を我々がカバーせねばならぬとは、なんとも迷惑なものだ」

「ああ。奴等は我々の中でも最強……もしチルドを倒した勇者が我々の下に来たりしたら、ひとたまりまおるまい」

「ああ、皆殺しだ……我等がな」

「偵察の結果だと一撃死と焼死が混ざっていたそうだ……とんでもなく強力で残虐だ」

「フフ、身震いしてくるな」

「お前もか……我もだ」


 フッと通信のオーブを通して2人の将は笑いあう。もう先程から全身が小刻みに震えているが、決して武者震いではない。マジのビビリだ。そいつが来たら死ぬ。そんな確信を抱いていた。


「うわあもうどうするんだ!? チルドとデーモンスレイブの部隊をやっちまうような奴だぞ!? コボルト隊で勝てるわけねえだろ!」

「こっちもだよ! デーモンを倒すような奴だぞ!? オークが鎧着た程度でどうにかなる相手か!? しかも魔法使えるのか魔法使いがいるのか知らんが火攻めだ! オークの丸焼きになるに決まってんだろ!」

「このままだと……!」

「我々は死ぬ……!」


 持ち場から逃げるわけにはいかない。謎の勇者も怖いが上司も怖い。魔族相手に勝てるはずもないし魔族に睨まれてはモンスター界隈ではやっていけない。

 しかし、チルド隊を皆殺しにするような相手と戦っても殺される……!


「八方ふさがりだぞ、どうする……!」

「殺されるわけにはいかん、何か戦いを回避しつつ責任を問われないような方法を考えるんだ!」


 そんなものがあるのか? ないかもしれない。しかしなければ死ぬ。ならばひねり出さなければならない。どうにかなる秘策を……!


「……我々は知恵の試練的なもの担当というのはどうだろうか」

「なるほど。勇者には知恵が必要だからクイズで勝負だ的な」

「問題はそれで上が納得するかどうかだが」

「そもそもクイズとか作れるのか?」

「……」

「……」


 2人は互いの映像を見ながら、フッと微笑む。


(無理だな。オークって馬鹿だし)

(無理だな。コボルトって馬鹿だし)


 ちなみにどっちも馬鹿なのでクイズとかは無理だろう。さておいて自分はこいつと違って智将だというところは見せておきたい。それさえ証明できれば知恵の試練とか言ってもディバスに通じるかもしれない。まあ、そんなわけで2人はとっておきの長距離通信のオーブを使いディバスへと連絡をとったのだが……返ってきたのは辛辣な一言だった。


「馬鹿なのか?」

「「バ、馬鹿ではありません! 少なくともこいつよりは!」」

「何ィ!?」

「貴様ァ!」

「黙れ馬鹿ども。それでチルドがやられたというのは本当なのだな?」

「ハッ、それは間違いございません」

「ふむ……」


 ディバスは報告を受けながら腕を組み指でトントンと自分の腕を叩く。如何にこの2人が馬鹿とはいえ、そこを間違うことはないだろう。となれば本当にチルドは倒されたのだ。

 

「勇者……本物が現れたということ、か……?」


 だとすると馬鹿2人とその部下では倒せないだろう。知恵の試練とやらで生きて情報収集させるのもアリだ。


「よし……では知恵の試練の内容とやらを聞かせてみろ」

「ではこのオークの中のオークたる我より1つ。オークの若者が他所の村にリンゴ15個を持ち肉と物々交換に行きました。さて、肉の価値をリンゴ5個とした場合、若者が持って帰ってくる肉は何個でしょうか?」

「3個だろう。なんだそのくだらん問題は」

「いいえ……答えは0個です」


 どや顔のオークジェネラルにディバスは疑問符を浮かべる。どう考えても3個なのにどうして0になるのか?


「オークの若者はリンゴを道中で全部食ってしまうので肉を持って帰ってこれないのです」

「ちなみに今の問題の場合、コボルトだとリンゴを持って逃げるのでやはり0個になります」

「……そうか。好きにしろ」


 どうでもいいや、と。無の表情でディバスは通信を切っていた。

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