蛮族、デーモンを倒す
「ハ、ハハハ! オーラ使いよ、少々驚かされたが貴様はそこまでだ! 死ね!」
チルドは口から連続で光線を放つ。人間如き簡単に消し飛ばせるその光線を、ジャスリードは空中を蹴って自在に飛び回り避けていく。
「蛮神グラウグラスの怒りの火よ!」
「ぐわああああー!」
地上では魔法使いらしい女が曲刀を手に大暴れしている。あれも中々の怪物だとチルドは舌打ちしそうになる。数の差で磨り潰せるだろうが……それでも忌々しくはある。目の前のジャスリードを殺したら即座に殺してやろうと、そんなことをチルドは思う。そう、上手く避けてはいるようだが……あくまでそれだけの話だ。チルドは自分の勝利を全く疑ってはいなかった。
「いつまで避けられる!? 疲れ避けられなくなったそのときが貴様の最後だ!」
「お前こそ、その技だけでいいのか? それでは俺は殺せんぞ」
「ハハハハハ! 良い挑発だ!」
想定してはいたが、地上の女の火力が高い。曲刀まで振るう接近戦の実力でもデーモンスレイブに負けていない。時間の問題ではあるだろうが、損失が少ないほうがいいのは間違いない。たった2人の人間相手に大量の損失を出したと報告するのは、デーモンとしては恥だからだ。
だからチルドはジャスリードの挑発にのることにした。一撃で殺して、次にいくことを決めたからだ。
「ならば受けよ我が至高の一撃!」
「そうだ、それだ! それが欲しかった!」
なんだこいつ。そう思いながらもチルドは口から最大級の光線を放つ。眼下にあるゴブリンの村程度であれば一撃で消し飛ばしてあまりある極太の光線は、間違いなくジャスリードを消し飛ばしたと確信できる会心の一撃だ。空の雲さえ消し飛ばしたであろう、それはしかし。そうはならなかった。
「感謝する、チルド。お前を糧に、俺はまた1つ先へと進もう」
光線を輝くベルギア刀で切り裂いて。その一撃はそのまま、チルドを真っ二つに切り裂く。
「ば、かな……」
デーモンは普通の生命とは違う。真っ二つになっても死なないわけではないが、即死はしない。だからチルドは、自分の何が敗北に繋がったのかを考えていた。
ナメていた? それはある。しかし直接の原因ではない。戦力が足りなかった? それもある。消し炭になっているデーモンスレイブたちを見るに、少々過小評価をしていただろう。だが、それよりも。
「やはり貴様だ……貴様こそが勇者なのだな……」
「俺はそんなものではない」
勇者などというものではない。ジャスリードは誇り高きベルギアの戦士だ。だから、一切の躊躇なくそう答えて。チルドはフッと笑う。
「いや、我には分かるぞ。きっと魔族は貴様のような存在を恐れたのだ。ハハ、ハハハ……そうか、ようやくわかったぞ。勇者ゲームとは……本物をあぶりだすための……」
「何を言っているか分からんが……まあ、お前の中ではそれが真実なんだろう」
死に際に納得している者の意見を必死になって否定することはない。それもまた死する者へ贈る選別だからだ。だから、そのままジャスリードは中央広場へと着地して。すっかり消し炭になった中央広場を見据える。広場にグレイスは居ないが、すぐ近くで魔法の炎が炸裂している。
「ていやあああああああああ!」
「聞こえてくるな。良い咆哮だ。グレイスはシャーマンとしても戦士としてもきっと成長するだろう」
今代のシャーマンもジャスリードは直接戦ってみたことはないが、長が認めるほどの腕だという。きっとグレイスも次代のシャーマンとして相応しい実力を身に着けるに違いない。
「フッ……強くなったものだ。俺が見守る必要など、もう無いのかもしれんが……」
「ぎゃあああああああ!」
「ん?」
そこには剣を持ったまま逃げてくるデーモンスレイブの姿があった。如何にも恐怖の表情を浮かべ逃げているデーモンスレイブは進路上にいるジャスリードを見て剣を構える。
「死にたくなけりゃ退けえええええええええええ!」
「お前が死ね」
ザン、と。一撃でデーモンスレイブをジャスリードは切り裂く。要はグレイスから逃げてきたのだろうが、なんとも愚かしい姿だ。戦士の誇りが微塵も感じられない。そういうのがジャスリードは大嫌いだった。武器を持つのであれば戦士たれ。戦士の誇りなく武器を振るい誰かを害しようというのであれば、ほぼ例外なく死だ。他の誰でもなく、ジャスリードがそうしてやると決めていた。
「あら?」
そして、そこにやってきたのはグレイスだ。ベルギア刀を手に持っているが、大分余裕のある立ち姿だ。多少の疲れは見えるが、大勝であったことがよく分かる姿だった。
「グレイス。勝ったみたいだな」
「ええ、勿論でしてよ! 逃げたのはジャスリードが?」
「ああ、殺した。チルドもだ」
「まあ、そうなるだろうとは思ってましたわ」
「強さは然程でもなかったが、空中戦という新しい戦い方を覚えた。今後に活かせるだろう」
また強くなった。その事実にグレイスは乾いた笑みを浮かべる。
「全然追いつけませんわね……」
「そう簡単に追いつかれては困る。もっと引き離していくつもりだ」
至極真面目にジャスリードは、そう答えるのだった。とにかく魔族軍侵攻部隊のチルド隊、これにて壊滅であった。
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