蛮族、デーモンと戦う
デーモンの軍勢が空を飛んでいる。デーモンのチルドとその配下、デーモンスレイブ200。
同数のゴブリンであれば数秒あれば蹴散らし、同数のオークでも数分あれば蹴散らす破壊の使徒たち。それらはゴブリン村の近くで偵察を出し、その場に待機していた。
「……戻ってきたか。報告を」
チルドは偵察に出したデーモンスレイブが戻ってきたのを見て、そう端的に命令する。それなりの時間があったのだから迎撃するつもりなら罠を張っているか、それとも迎撃を諦めて逃げているか。どちらであるにせよ、デーモンスレイブを使えばその全てを明らかに出来る。そう考え送ったデーモンスレイブは持ち帰ってきた答えは、チルドにとっては驚くべきものだった。
「中央広場に居ます」
「ん? 何がだ?」
「目標と思わしき人間と、それ以外の人間。合わせて2人が中央広場で待ち構えています」
「は? 罠か?」
「そ、それが……確認出来る限りでは罠はなく。こちらに気付いた様子もありましたが攻撃してくる様子もありません」
その報告にチルドは考え込むような様子を見せる。脆弱な人間のはった罠など食い破り嘲笑ってやるつもりだったが、罠が無いとはあまりにも意外だ。
いったい何を考えているのか……それを考えて、チルドはハッとする。
「そうか。分かったぞ」
「おお、流石ですチルドさま!」
「もう1人人間が居ると言ったな? それが魔法使いなのだろう。恐らく我等が空から突っ込むと同時に全力の大規模魔法を放つつもりなのだろう」
「なんと……!」
「余程自信があるのだろう。それであれば我は倒せずとも軍勢は倒せるかもしれない、そう考えているのだろうな!」
しかし、そうであれば話は簡単だ。その浅はかな策を台無しにしてやればいいのだから。
チルドのデーモンとしての明晰な頭脳は、そのための方法を簡単に導き出す。
「隊を4つに分け四方の地上から侵攻せよ。俺は空から中央へ行く」
「はっ!」
デーモンスレイブたちが散っていくのを確認すると、チルドはフッと笑い中央広場へと飛んでいく。そこには刀を提げた女が1人。そして……同じ刀を抱えて胡坐をかき瞑想している男が1人。その男はジャスリードと名乗った男に間違いない。
チルドは、ジャスリードを嘲笑うべくスッと息を吸って。ふわりとジャスリードが浮いたのを見た。
「う、浮いたアアアアア!?」
「あっ、デーモンですわ!?」
「来たか」
浮いたまま目を開いたジャスリードに、しかしチルドは動揺が収まらない。
「き、貴様! 人間のくせに宙に浮くとはどういうからくりだ!」
「どうもこうも。修行をしていれば浮くこともあるだろう」
「あってたまるかああああああああああああああああ!」
「まあ、そうですわよね……」
グレイスの小声のツッコミも聞こえてくるが、実際修行をして浮くことなど……どうだろうか、ジャスリードという実例が此処にあるのだから、あるのかもしれないが……なんだかチルドはものすっごく嫌な予感がしていた。予想よりもコイツ、ヤバいんじゃないだろうか。そんなことを思ったのだ。しかしまあ、今更である。
浮いていたジャスリードはチルドを見てフッと笑うと、浮いた状態から軽くジャンプして地面へと降り立ちベルギア刀を抜く。
「俺はベルギアの戦士ジャスリード! デーモンのチルド! 俺の闘争相手よ! いざ尋常に勝負だ!」
「フン、勝負だと? 勘違いするな。これは粛清だ」
今更だからこそ、チルドは最大限に尊大に振舞いながら声を張り上げる。
「我が配下たちよ! こいつらを磨り潰せ!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
チルドの命令と同時に四方からデーモンスレイブたちが襲ってくる。四方から地上を走っている以上、魔法の一発で倒すのは不可能。
(さあ、貴様等の策は敗れた。どうする……ん?)
ズドン、と。凄まじい音を立ててジャスリードがチルドの視界から消えて。
「は?」
「さあ、勝負だ」
「はああああああああ!?」
チルドの上空へと飛んだジャスリードが、ベルギア刀を振り下ろす。
ガオン、と。剣の音にしては凄まじすぎる音が響き、空気が切り裂かれ剣風が見えない刃と化して放たれる。
「ぬ、ぬおおおおおおおおおお!?」
避けた。避けなければ殺されている。なんだこいつ、こいつはなんだ?
そんな混乱した思考の中で、チルドは口から光線を放つ。空中では避けられまい。避けられる速度でもない。それを、ジャスリードは空中を蹴って避けた。
「き、貴様ああああああ! なんだそれは!」
「知らんのか。風や空気には人を押す重みや形がある。ならばそれを利用して踏むことだって可能だろう」
「ふざけんなよ貴様!? そんな無茶苦茶な理屈があるか!」
人間に出来ることじゃないとかそういう問題ですらない。不可能だ。不可能を可能にしてしまっている。ということは、それを説明できるのは1つしかない。
(オーラ、そうかオーラか! オーラ使いであるならばそういったことも可能……可能だよな? きっとそれに違いない!)
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