蛮族、中ボスに出会う

 モンスター軍による侵略部隊の支部。そういう役割を持たされている砦の最上階に、豪奢な鎧を纏った骸骨があった。いや……それは死骸ではない。確かに何らかの意思を持って動いているからだ。

 モンスター「ジェネラルスケルトン」。それがそのモンスターの名前だった。モンスターの中でも高い知能を持ち、意志疎通も簡単。なおかつモンスターとしては人格も良好で魔族にも分かりやすく忠実。それ故に聖魔大戦でも重陽されたエリートモンスターである。

 今回のゲームも戦争ではなくゲームだと……場合によっては倒されるのも仕事の内と分かってなお忠実に仕事を遂行するジェネラルスケルトンは、階下の騒ぎにすでに気付いていた。

 何やら怒号と悲鳴、そして破壊音……恐らく伝えられていた勇者とその一行だろう。

 予定より随分早いし勇者一行はすでに全滅したとも聞いていたが、失敗から学んで新しい……有能な勇者を送り込んできたのかもしれない。


「私の仕事がようやく来たということか。フッ……ゲームだというのであれば相応に振舞わねばいかんか」


 自分の剣と大盾を手に取り、ジェネラルスケルトンは侵入者を迎え撃つ構えをとる。ここに来るまでにはスケルトンナイトを倒さなければならないはずだが、この調子であればすぐにやってくるだろう。

 響く戦闘音を聞きながらジェネラルスケルトンは侵入者を待ち構えて。用意していた台詞をここぞとばかりに放つ。


「フハハハハハ! 待っていたぞ勇者よ! よくぞ此処まで来た! しかしお前たちの旅は此処で終わる!」

「歓迎感謝する。俺たちは勇者ではないが」

「あ、どうもお邪魔しますわ」

「……んん?」


 ジェネラルスケルトンは侵入者たちを見つめ、何か見間違えたかと周囲をゆっくり見回し……再度ジャスリードを見て「……蛮族?」と呟く。それは脳のない頭の中でぐるりと巡り……ガチャッと大きな音を立てて後退る。


「ば、ばばばばばば……蛮族!? なんで蛮族がこんなところにいる!? まさかこの近辺に住んでいたのか⁉」

「いや、俺たちはこの近くの住人ではない」

「なら何故此処に居る! 何故此処に来た! 一体何の用だ!?」

「そのためにはまず自己紹介がいるな」


 ジャスリードはそう言うと、ベルギア刀を鞘に納めたまま掲げる。


「俺はベルギアの戦士ジャスリード。村の近くにオークとゴブリンの混成軍がいた。此度の勇者ゲームだか魔王決定戦だかによるものかと問いただしに来た」

「……それで私たちのせいだとしたらどうするつもりなのだ」

「その場合は然るべき報いを受けさせる。俺1人では敵わずとも、ベルギア氏族はその総力を持って魔族へ挑むだろう」

「そうか。少し待て。頭の中を整理する」

「ああ」


 なんかやべえことになった、とジェネラルスケルトンは流せるはずもない冷や汗が流れそうになる。

 蛮族を襲撃などするはずがない。蛮族は人類種族の中で突き抜けてやべえ奴等だ。

 蛮神グラウグラスとかいう「前以外に進む道はない」みたいな魂まで筋肉みたいな神を信仰している奴等だ。生まれたときから他の種族の鍛えた15歳程度の筋力は持っており、毎日の修練で青年期にはゴーレムに殴り合いで勝つ程度にはなっている超人集団だ。

 神魔戦争においては「巻き込まれた」と両軍になだれ込み、戦況を無茶苦茶にした奴等でもある。

 あまり無茶苦茶なので若い世代の魔族は信じていないというが、そういえば上司のディバスは新しい魔族の1人だった気がする。


(いや、しかし私は知らんぞ。知らんが……まさかディバスさまがついでとばかりに仕掛けていたとしたら? 可能性はあるぞ。あの方は転移術が得意だ。頭の回るオークを送り込んでいたとして……)


 今日ばかりはジェネラルスケルトンは自分が骨であることに感謝した。表情もないし冷や汗も流さない。とにかく、落ち着いて目の前の男に対処しなければならない。相手は蛮族戦士と……もう1人は蛮族っぽいオーラは出てるし格好も蛮族だが、顔立ちが違う。


「1つ聞きたいが、隣のお嬢さんは何方だ? お前の恋人か嫁か?」

「うちのシャーマン見習いだ」

「そ、そうか」


 ちょっと照れているグレイスと比べるとジャスリードの表情には一切の動揺も変化もない。その事実がジェネラルスケルトンにはちょっと哀れにも思えたが……とにかく今ので頭も多少冷えた。


「聞かれた件についてだが、私は知らないし命令も配置もしていない。わざわざ蛮族を刺激したくはない」

「そうか。こちらの勘違いということか。謝罪しよう」

「いや。私は知らないが、上司は若いので私の意思とは関係なく仕掛けた可能性もある。それについては私は知らないし、魔族全体の意思でもない。それに加え可能性の話であるとは重ねて言っておこう」


 このままジャスリードの勘違いでしたで押し切ってしまうのが楽ではある。しかしもし本当にディバスが仕掛けていたことが後からバレでもしたら、それこそ蛮族たちが襲ってくる。ならば最初から知っていることと可能性のあることを正直に言ったほうがマシだと。そんな酷く合理的な判断をジェネラルスケルトンはしたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る