魔将、会議する

 西の果て、最果ての地とも言われている地域に、1つの巨大都市があった。高度な文明力を持つ者が作ったことが明らかなその場所は『魔都セイクーン』とも呼ばれていた。

 そのセイクーンの中央に存在する巨大な城には、まだ主はいない。しかし、いずれそうなるだろうと言われている5人の「魔将」たちがそこにいた。

 条件を一番早く満たした者が王となり、残りは従う……そういう条件の下に集った、いずれ劣らぬ猛者たちだ。

 魔王が座るべき上座を除き、円卓に座る5人の魔将たちは互いを尊重してはいるが自分の方が上だと自負している。人類の国の侵略ゲームなどという酷く穏当な手段で魔王を決めることになったのも、いずれ自分が魔王になったときに大人しく言うことを聞かせるための後腐れのない手段であったからだ。


「さて、どうかな? ゲームの具合は」

 

 眼鏡をかけた黒髪の男……魔将ノルムがそう全員に問いかけるように声をあげる。この中では非常に肉体派であり、頭脳派の見た目ではあるがどちらかというと直接叩き潰すことを得意としていた。頭脳派に見える見た目はキャラづくりである。


「ちなみにボクのところは順調だ……帝王とやらの首をとる日も近いね」


 ノルムの相手はノーザン帝国。強力な専制国家であり、優秀な皇帝による強力な軍隊が整備された大国家だ。しかしそれでもノルムが厳選したモンスターのパワーの前ではノーザン帝国の勇者などたいした相手ではない。今も2番目に弱いモンスター相手に苦戦しているようだ。


「私のところもいい感じね。共和国議長とやらも焦燥の度合いが凄いみたいよ」


 そう言ったのは魔将エイラ。艶のある蝙蝠のような翼が印象的だが、その妖しげな色気は伝説の傾国の魔物サキュバスをも思わせる。この中では非常に肉体派であり、妖艶な見た目ではあるがどちらかというと豪快な戦いを得意としていた。妖艶に見える見た目は女子力磨きと自己プロデュースの賜物である。

 そんなエイラの相手はクロス共和国。商人などが集まって作ったクロス商業連合が国となったものだが、その莫大な資金力による強力な傭兵が主戦力だ。当然勇者にも一流の傭兵たちが選ばれたが……こちらもエイラの送り込んだモンスターに苦戦している。


「儂のところも順調、の一言じゃな。聖国などといったところで大したものでもない」


 見た目が老齢の男に見える魔将アンガンは、神秘をその頭脳へと蓄えた大魔導士の如き姿が実に印象的だ。巨大な魔石のあしらわれた杖もまた、素晴らしく立派だ。この中では非常に肉体派であり、魔導士のような見た目ではあるがどちらかというと剛力でぶん回す棒術を得意としていた。魔導士に見える見た目は威厳を出すためのコーディネイトである。


「ガハハハハ、勿論俺様も順調だ! 連合国総長とやらの首はもうすぐ俺様の手の中だろうよ!」


 筋骨隆々の大男グラハムは、その如何にも猛将といった見た目を大きく揺らして笑う。逆毛の赤髪はまるで燃え盛る炎のようで、纏っている鎧も刺々しく強そうだ。この中では非常に肉体派であり、巨大な剣を振るう豪快な戦い方を得意としていた。珍しく見た目通りである。


「なるほど、全員順調ということだ。実に良い! そして勿論私も順調すぎるほどに順調だとも!」


 最後は魔将ディバス。この中では唯一頭脳派だ。今回のゲームを提案したのもディバスであり、皆頭良さそうに振舞っている脳筋なので自然とディバスに同意する流れがもう出来ていた。まあ、ディバス自身他の連中にゴチャゴチャ言われないように如何にも他の面々の意見から思いついたかのように振舞っているのだが……まあ、実際にこのゲームでもディバスは順調すぎるほどだった。


「ふふふ、今回のゲーム……この調子なら誰が勝ってもおかしくはない。本当に良いゲームだったものだ」

「そうだね。まあ、勝つのはボクだが……恨まないでくれよ」

「楽しみにしていよう」


 ノルムの軽口にディバスは適当に相槌を打ちながら「そういえば」と声をあげる。


「人類とは実に多様なものだね。人間族、妖精族、水棲族、飛翔族、蛮族……正直、人間族が最弱なのに覇権を唱えているのはやはり数なのかな?」

「「「「蛮族!?」」」」

「ど、どうしたんだい!?」


 ガタリと響く音とハモる声。それにディバスは驚きの声をあげるが、全員が「いや……」と適当な声をあげながらそっぽを向く。


「おいおい、気になるじゃないか。蛮族がなんだっていうんだ。何かあったのか?」

「いや、何もない」

「そうね、何もないな」

「うむ、何もない」

「ああ、ないな」

(絶対何かあるだろう……!)


 こいつらまさかと思い、ディバスはカマをかけてみる。


「そういえば私が宣戦布告に行ったときもその場に蛮族が居たな。挨拶だけで帰ってきたけどね」

「挨拶……」


 アンガンは訝しげな表情でディバスへと視線を向ける。


「まさかとは思うが、不意打ちなどかけてはいないな?」

「ん? ああ、かけてないが」

「そうか……ならいい」


 シンと黙り込んでしまう円卓の面々を見て、ディバスは混乱していた。こんな特技は暴力ですみたいな連中が蛮族の何を恐れているのか?

 その答えは……彼らから得られることはなかった。

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