魔将、フラグが進行する

「どうやら勇者とやらは2日目で全滅したそうだ」

「なんと……命令で向かったと考えると可哀想ですわね」

「しかし3日もたないとは。移動してすぐ倒されたのですか?」

「そうだ。50の勇者一行は300を超えるモンスターたちに僅かな抵抗の後総崩れ、しかるのちに全滅……と。こんな流れのようだな」

「それって……まあ、考えてみれば向こうの提示したルール通りですわね」


 個には個を、集団には集団を。そんな感じだったとグレイスは記憶しているが、50人の勇者一行は当然のように集団と判断されたということなのだろう。

 しかもどうにも、勇者一行が失敗したことで貴族たちは自分の領地に引きこもり防備を整える方針にしたようなのだが、見事各個撃破されているという。

 ならば協力しあえばいいものを、誰をリーダーとするかでまた揉めているうちにじわじわと侵略されているというのだから救いようがない。


「まあ、そんなわけでどうしようもないとベルギア氏族を動かそうとしたようだな」

「それでアレですか。長よ、王族というものはアホなのですか?」

「頭を下げられんのだ。下賤に頭を下げるは首を切られるのと同じというわけだな」


 まあ、そのプライドで本当に首を切られる数歩手前なのだから度し難い……が、国を動かすというのはそういうものなのかもしれない。

 というか実際その通りであり、王が頭を下げれば貴族はここぞとばかりに王の責任を追及し王太子……はゴブリンフェイスになっているので、傍系を操り人形として据えようとしてくるかもしれない。その上でベルギア氏族は上手く使おうとか、そういうことを企むのだ。


「ま、そういうのを全部説明させたわけだが……流石に少しばかり哀れでな」

「長。まさか助力を?」

「いや。頑張れと言った」


 別に国が滅んでもベルギア氏族では作らないタイプの嗜好品が手に入らないくらいなので、それは別に「ま、いいか」という話であったりする。だから帰ろうと思ったのだが、そこを「国のために立ち上がらんとは何事か!」と第一騎士団長とかいう騎士が立ち塞がったのだ。


「で、これがその兜だ。頂いてきた」

「なんで毎回兜を貰ってくるんですの……?」

「デザイン結構面白いのが多くてなあ。鍛冶屋どもの刺激になるかな、と」


 なるほど確かに貴族の兜は面白いデザインのものも多いが……結構真面目な理由なのでグレイスは納得して頷いてしまう。しまうが……それとは別に気になることもあった。


「長。もしかしてですけれど……モンスターの侵攻はもう、この辺りまで来ているのでは?」

「ほう。何かあったかな?」

「この前のゴブリンか」


 ジャスリードにグレイスは「ええ」と頷く。そう、ゴブリンの間に混じっていたオーク。通常有り得ない組み合わせだ……有り得ないことが起こるというのは、つまり何かしらの原因が紛れているということだ。そして直近で考えられるのは、やはり魔族だ。


「有り得ない組み合わせ、そしてモンスターを操れる魔族。だとすると、すでにベルギア氏族への侵攻の準備を整えているということでは……?」


 グレイスのその推測にジャスリードと長はむうと唸る。有り得ない話ではない。そう考えたからだ。


「……可能性はあるな。長、どうでしょう?」

「そうだな。うむ……」

 

 悩むように長は天を仰ぐ。喧嘩を売られたならばとことんまで付き合うのがベルギア氏族の流儀ではある。しかしながら、喧嘩を売られてもいないのに売るのは少し違う。蛮神グラウグラスを信仰する者として、常に怒りは「正しく」なければならない。ただ怒り散らすだけならば知性など必要ないのだから。


「確証が欲しいな」

「確証、ですか」

「そうですけど、まさか本人に聞いてみるわけにも」

「「それだ」」

「え?」


 グレイスの発言にジャスリードと長は一斉に声をあげる。そうだ、それがあった。何故それを思いつかなかったのかが不思議なくらいだ。


「流石だな、グレイス。確かに本人に確認するのが一番だ」

「ああ。もし犯人であればその場で思い知らせてやればいい。犯人でないならそれで話は終わりだ。ふふ……やるではないかグレイス。流石にシャーマン見習いといったところか」

「ええっと……」


 いくらなんでも「確証がないから国滅ぼしゲームをやってる魔族本人に確認しに行こう」と言い出す奴が何処にいるのか。まあ、此処に居るのだけれども。そう思ってしまうのもまだグレイスに元の常識が息づいているせいなのか?

 悩んだ末、グレイスは「ふう」と全てを諦めた溜息をつく。


「確認とは言いますけれど。具体的にどのようになさるのです?」

「決まっている。探すんだ。何、居場所が分からねばゲームにはならん。探せば自然と居場所が知れるはずだ」

「……それは、確かにそうですわね」


 命懸けのお遊戯、とかあの魔族は言っていた。自分が人間にやられるはずがないと思っているからこその発言なのだろうが、恐らく自分に辿り着けるような何かを用意しているはずだ。


「よし。ジャスリード、そしてグレイス。お前たち2人に件の魔族探しを命じる。見事成し遂げてくるがいい」


 その長の命令。それは魔将ディバスにとって、一番来てほしくない連中がやってくる……その合図だったのだ。

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