没落少女、懐かしい顔を見る
ゴブリンとオークの混合という大変珍しい集落を殲滅……1体残らず殲滅した後、集落に残された物資を回収していく。どうにもあちこちの村を襲撃でもしたのか、まだ真新しい武器や鎧。弓に矢、そして食糧類や本や金品の類までもが集落に雑多に積まれている。
「あら、これはたぶん新しい本ですわね」
「そうなのか?」
「ええ。秘密のメイドと10人の貴公子……人気のシリーズでしたのよ。これは知りませんから、たぶん最近出たんですわね」
よく分からないがそういうのもあるのだろう、とジャスリードは頷く。そういうのをグレイスが理解できるのは助かる話だ。そんな比較的新しい本があるということは、この荷物が奪われたのもごく最近であり、娯楽本を所有できる程度には裕福な層ということだ。
「つまり、これらは最近略奪されたということだな」
「そうなりますわね。ほら、保存食の袋も新しいですわ」
「そうだな……む? 保存食?」
そんなものを作るのは冬に入る前か、あるいは旅用だ。となるとまた行商人の馬車でも襲われたか、あるいは……何処かに旅に出ている途中の者が襲われたか。
「保存食に娯楽本、武具に金品……ふむ。まるで都市の金持ちが夜逃げでもしていたかのようだ」
「あっ、まさか」
グレイスの言葉にジャスリードは「何か思いついたのか」と聞く。
この3カ月ほどの間、グレイスはシャーマン見習いとしては充分すぎるほどの知恵を示してきた。
それだけではなく、戦士としても相応しい……最低限ではあるがとにかく相応しい実力も身に着けた。未来のシャーマンとして得難き才能だ……もはや誰もがグレイスを認めている。
「本当にそれなりの立場の何方かが逃げたのでは? ある程度の家財を積んで、護衛を連れて何処かに退避するつもりだった……としたら?」
「そこを襲われた、と」
「ええ。金品類は芸術的価値は分かりませんけどお金になりそうなものばかり……ほら、この杯は金製品な上に大きな宝石がついてますわ」
「ふむ」
「それに貨幣は金貨の割合が大きく銀貨は少なめ……銅貨はもっと少ない上に小分けですわ。これって、護衛や使用人の財布ではなくて?」
そう考えていくと、持ち主も大分見えてくる。恐らくは裕福な商人か、ある程度金銭に余裕のある下級~中級程度の貴族。
ひとまず避難先でどうとでもできる程度の財産を持って護衛と共に旅立ち、そこを襲われたのではないだろうか?
まあ、ゴブリン程度ならある程度までは対処できたかもしれないが、数が多すぎた上にオークもいたので敗北した。そう考えるとある程度納得がいく。
「いかがかしら?」
「ああ、良い推測だと思う。となると、そいつらはなぜ逃げたのか、だが」
「まあ、恐らくは魔族の話でしょうね。上手くいかなくて不安が広がっているのではないかしら」
そう、あの魔族は「モンスターを使いじわじわと浸食し、やがてこの城まで辿り着く」と言っていた。恐らくはその浸食が順調であり、勇者一行は対抗しきれていないのではないだろうか?
随分と情けない話ではあるが、あの場にいた連中ではそのくらいが限界なのかもしれない。
「しかしそうなると、国が1つ滅ぶか」
「そのままなら滅びますわね。他国がどうなるか分かりませんけども」
「ふむ……」
あの最初の旅立ちの日、長はジャスリードの知らない世界があることを、それで見分が広がることを示唆した。しかし蓋を開けてみれば戦士とは呼べない愚か者ばかり。ジャスリードの知らない理は、あの魔族の使った技くらいだろうか?
「いや待て。そのままなら、と言ったな?」
「ええ。噂レベルですけれど、とんでもない達人たちがいるという話もありましたわ。もしこの状況でそんな人たちが姿を現し、王国が接触することができたなら」
「状況は変わる。なるほどな」
なるほど、国の危機に際して隠れていた達人たちが姿を現す。なんとも面白い話だろう。あるいは長はそんな達人との出会いを期待してジャスリードを旅立たせたのではないかとすら思える。
「面白い話だ。そんな連中と技を競ってみたいものだ」
「私もどちらが勝つか興味がありますわ」
ジャスリードとグレイスが互いに微笑みあって。そんな2人の下に、ベルギアの戦士の1人が走ってくる。確かいざというときの村の防衛に回された1人のはずだが……。
「ジャスリード、王国からの使者とかいう連中が来ている。長がグレイスを連れて戻って来いと」
「使者? 何をしに来たんだ」
「まさか参戦しろ、という話でしょうか」
「分からん。分からんが……行ってみるしかないな」
ジャスリードとグレイスは頷きあうと森の中を走り、集落へと辿り着く。
「おお、戻ったか2人とも!」
そこにはほがらかに笑う長と……殴り転がされた跡も真新しい騎士たちとゴブリン顔の王太子アルダンの姿があったのだ。
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