没落少女、確信する
しかし今の騎士団長は国内最強と言われるオーラ剣士だったはずなのだが……その騎士団長が必殺の剣と言ったのであれば間違いなくオーラを纏う剣……すなわちオーラブレイドだったはずだと、グレイスは気付く。
大地をも切り裂くオーラブレイドを真正面から破るとなると、長も当然それに対抗できるものを使ったはずだが、とそこまで考えてグレイスはベルギア流オーラ術のことを思い出す。まさか、まさかとは思うのだが、と。グレイスは冷や汗を流しながら聞くことにする。
「あの、騎士団長はオーラブレイドを使ったと思うのですけれど。それをどうやって」
「正面から剣を砕いた」
「えっ」
「何を聞こうとしているかは分かる。オーラの話もシャーマンから聞いているしな」
言いながら、長はジャスリードに「構えろ」と呼びかけ、ジャスリードも特に何も聞かずに徒手格闘の構えをとる。
「要はお前が聞いているのは、こういう技をどう防ぐかということだろう?」
言いながら長の拳を覆うようにゆらりと現れたのは……オーラ。すなわち格闘家でいうオーラナックルだ。まさかベルギア流ではないものも使えるというのだろうか?
「ジャスリード。防げ」
「はい」
「え、待っ……」
そんなものを受けたら、下手すると死んでしまう。だからこそグレイスは止めようとして、バルバに「まあまあ」と止められる。その間にも、長の凄まじいオーラナックルはガードの態勢に入ったジャスリードに命中して。ドガン、という凄まじい爆発音にも似た音と共に周囲の土が舞い上がり……それが収まったところには、無傷のジャスリードの姿があった。
「とまあ、こんな感じだな」
「ええっ⁉」
「説明したげる。ベルギア流オーラ術の『健康』ってね、心身の健康のことだけども。通常外に放出させるオーラを血みたいに身体の中で巡らせてるから、いわゆる『オーラ防御術』に特化してるのよ。そこに蛮族の鍛え続ける肉体が合わされば……まあ、クラナック山が空から降ってきても死なないわよね」
世界で一番険しく高いと言われている山を例に出して言うバルバに長が「1度降ってきてみてほしいな!」と笑う。本気で常識を超えすぎている。
(……落ち着いて、私。これはベルギア流の冗談ですわ)
「別に冗談ではないぞ。そのつもりで日々鍛えている」
「そ、そうですの……」
「お前も山はすぐには無理かもしれないが、岩が落ちてきても支えられるくらいにはなるだろう」
「あ、あはは……」
すぐじゃなくても無理では、とグレイスは思うのだが、事実この数日でとんでもない成長をしているだけにグレイスとしても否定しきれないものがあった。
「しかし魔族だったか? その話で随分と王都は騒がしかったな」
「ああ、そういえばそのための勇者でしたね」
「変なこと考えるわよねー」
3人の話している通り「勇者」制度は変ではあるが、国の威信を高め国民の不安や不満を解消するためのものであったのだろう。実際、幾つもの国が同意したある意味では平和のためのイベントでもあった。そこに本当に魔族が来てしまったから話がおかしくなったのではあるが……実際その辺のモンスターを倒して回る程度の活動しか考えてはいなかったはずだ。
「それで、どうなったのですか? 勇者は選定されましたか?」
「うむ。勇者と50人の仲間たちが旅立ったらしい」
「50……」
あの場にいた勇者候補と勇者の仲間候補を合わせればそのくらいの数にはなるだろうか、とジャスリードは計算する。しかしまあ、それはなんとも……。
「ま、それについてはどうでもいい。それよりもジャスリード」
「はい、長」
「魔族とやらが村にも攻めてくるかもしれんな」
「いつ来るかは不明ですが……恐らくはその通りでしょう」
そう、それは確かに深刻な話だ。魔族が遊びのようにあちこちに侵攻するというのであれば、このベルギア氏族の村にもモンスターの大群がやってくるはずだ。もしかすると……魔族も。
グレイスは不安にかられるが……そんなグレイスの肩をバルバは叩き、ジャスリードと長を指差す。そこには……笑いをおさえきれないといった様子の長とジャスリードの姿があった。
「ふ、ふふふ……ふわはははははは! はははははははは! 楽しみだなあ、ジャスリード!」
「くくく、はははははははは! そうですね長! 俺が会った魔族はそれなりには強かったですよ! まあ次会えば真っ二つにしますが!」
「ずるいぞジャスリード! お前はもう1回斬ったんだから儂がやるべきだろう! なあに心配するな、儂なら微塵にしてやれる!」
「ふははははははははは!」
「あははははははははは!」
「うわ怖」
「よーく見ときなさい。この村の連中は大体あんなだから。魔族なんてのが前に出てきたのは長が産まれるより遥か昔の聖魔大戦だし……長の中の男の子が蘇ったんでしょうねぇ」
だとすると、ベルギアの氏族が襲い掛かったら魔族は簡単に倒せるんじゃないだろうか。グレイスはそんな自分の考えも間違ってはいないはずだと、そんな確信を抱いていた。
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